【Review】FUJI XEROX SUPER CUP2019 川崎フロンターレVS.浦和レッズ「上々の仕上がり。早い準備で手にした念願のカップ戦」
はじめに
FUJI XEROX SUPER CUP2019は、1-0で浦和レッズに勝利しました。
昨年は苦渋を飲まされたこのカップ戦にリベンジを果たした形です。これで今季1冠目、さらにクラブとして初めてのカップ戦優勝ということで、また一つ歴史に立ち会えて嬉しい限りです。
というわけで今年初めてのマッチレビュー、勘を取り戻しながら書きましたので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。目次で気になったパートだけ見ても構いません(試合の中身ではないところばかりになってしまいました…)。それではスタート!!
アキレス腱のCBとボランチ
まずスタメンは大方予想通り。昨季のベースは維持しつつ得点を増やすのを目的に、小林とダミアンの共存を図る道を鬼木監督は選びました。結果的に1点に終わりましたが、目指す方向性の正しさは示せたのではないでしょうか。この分析についてはこちらをどうぞ。
一方でベンチは意外な顔ぶれで、まずCBを本職にする選手が不在でした。下図のように今季の川崎のCB候補は4人(山村も入れると5人)います。川崎のCBには高い技術と戦術理解が求められるために適応が難しいですが、昨年から在籍する舞行蹴すらベンチ入りしていません。おそらくバックアッパー最有力は車屋という想定なのでしょうが、この点は補強が上手くいっていない印象を受けます。
またボランチは途中出場の田中のみで、もちろん田中が悪い選手とは言いませんし、ユース上がりが活躍してくれることはクラブとして望ましいこともわかりますが、補強した山村とカイオがここの争いに食い込めていないのは向き合うべき課題でしょう。ただカップ戦の勝利を田中に経験させておきたかったという、鬼木監督の長期的な見通しの元での起用の可能性もあるかもしれません。
スタメンは相変わらず盤石ですし、知念、阿部、齋藤が控える攻撃陣は強力です。しかしその分後ろのポジションの層の薄さが気になりました。今季4冠を目指す上では11人だけで戦うのは無理というか不可能です。守田と大島は怪我で離脱した過去もあるのが心配材料ですし、CBも谷口の鉄腕ぶりにおんぶに抱っこをいつまで続けられるのかわかりません。この辺りの対応は今後見ていきたいと思います。
対照的な試合への準備
今年の川崎は昨年以上にこの大会への意気込みが強かったように感じます。本試合はカップ戦ではあるものの、シーズン初めなので調整が難しいです。昨年の川崎は開幕当初のチーム完成度が低く、ゼロックスでは敗北、さらにACLは一勝もできずに予選敗退しました。そんな反省から、今年の川崎はこの試合に照準を合わせて調整してきました。各選手のコンディションだけでなく、昨年は緩かった攻守の切り替えも昨季終盤と同程度に仕上がっており、スタートダッシュに向けてキャンプを行ったことがわかります。
そしてもう一つ、こちらの方が重要ですが、カップ戦決勝に勝った経験が欲しかったと思います。というのもリーグ戦は2連覇したもののカップ戦優勝はなく、6度も決勝で敗退しており、まだ苦手意識があったのではないでしょうか。実際に鬼木監督は以下のように、「一発勝負」を意識して準備してきたと述べています。
── 川崎はリーグ戦を勝ってきましたが、カップ戦での一発勝負での勝ちが無いという事が続いてきた中で、今日の勝利の意味というところはどういうふうに考えていますか?
鬼木監督「今回は一発勝負に勝つという事を目的に、選手にもキャンプの頭のところから話をしてきました。今日勝ったからといって、何か先にあるものではないですけど、自分達にとってはこの一発勝負に勝つということが、これからのカップ戦のタイトルを目指す上で必ずこういう経験を生かすためにという事で今日挑みましたので、そういう意味で言うと今日はしっかり勝てましたので、この意味はすごく大きいと思っています。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 FUJI XEROX SUPER CUP vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/fuji_xerox/01.html>)
チームを早く仕上げることは、逆に終盤の尻すぼみの可能性を高めてしまいます。そうしたリスクを考慮しつつも、意図的に早くからチームを仕上げて得た今回の「カップ戦優勝」という経験は、リーグ戦を連覇したように、川崎フロンターレにカップ戦を獲得するための自信を与えてくれるのではないでしょうか。
一方で浦和はキャンプでチームを仕上げることを選ばず、むしろ長期的に戦うための土台作りを目指しました。そのためキャンプ中の練習試合はわずか1試合、しかも90分を同一メンバーでやりきった試合はありませんでした。これについてオリヴェイラ監督は「今シーズン、我々は70試合プレーします。だから今は、せっかくある時間を練習に使いたいと思っています」とコメントしました。さらに以下のように付け加えます。
オリヴェイラ監督「そもそも、70試合を11人で戦えるわけがない。最低でも20人くらいが必要で、20人の誰が出ても戦力が変わらないチームになっていかないといけない。もちろん、レギュラーを目指してやりますけど、全員が日々努力することが大事だと思います」
(引用元:web Sportiva「浦和レッズ、練習試合わずか1回。
「オズの魔法使い」の狙いとは?」<https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2019/02/15/___split_15/>)
とはいえ浦和がこの試合を軽視していた訳ではなく、オリヴェイラ監督も「これはスーパーカップです。J1の王者と天皇杯の王者がプライドをかけてタイトルを争う本番です。テストではありません」と述べており、実際に緊迫した好ゲームになりました。
浦和の守備と大島の凄さ
長々と前段の話をしてしまいましたが、ここからは試合に入っていきます。まず浦和はハーフウェーラインを越えてプレスをかけませんでした。浦和の2トップはボランチの大島と守田をマークし、左右に広がった奈良と谷口には3ボランチの柏木と長澤がプレスするように守備を設計していました。
対する川崎はその守備を逆に利用します。序盤は家長と中村が落ちることで数的有利を作り、中盤以降は大島があえてサイドに張って相手FWを吊り出し、中央にスペースを作ることでビルドアップを容易にします。
ここで強調したいのが、大島の凄さです。この試合大島は昨年までのバタバタする感じがありませんでした。その理由がスペースを意識したポジショニングで、サイドに張ることもそうですし、パスアンドゴーではなく出した後に動かないこともそうですが、「あるポジションを取ることで勝負を決める」ことが上手くなりました。つまり動かずに、ボールに触れずに試合に大きな影響を与える選手になってきています。ここはぜひ今シーズン注目してほしいポイントです。
こうして浦和は奪いどころを定めきれず、昨季の強みであったミドルカウンターが不発に終わります。それでも浦和が1失点に終えられたのは、自陣ゴール前中央の守備強度の高さで、サイドで崩されようとも最後のところで体を張った守備は素晴らしかったです。
ダミアンの存在感
この試合の注目はダミアンが果たしてフィットするのかでしたが、攻守ともにフィットする形が見えたと思います。
まず驚きだったのが献身的な守備、そして奪いどころを把握しているプレッシングです。これまで開幕戦で動けなくなるまで守備をした選手がいたでしょうか。何度も相手GKまで寄せてチームトップの26回のスプリントを記録しました。中村も以下のように褒めています。
中村「ダミアンは守備でも、かなりチェイシングやプレスバックもしてくれた。僕らの前線がやるべきことを忠実にやってくれた。しかも迫力があるので、ボールが奪えそうだった。あれはプレッシャーになると思う。後ろが3枚の相手に、どうプレスをかけるか。4バックのチームの課題ではあるが、ユウ(小林悠)とアキ(家長昭博)も臆することなくいけたので、かなり制限できていた。後ろは楽だったのではないかと思う。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 FUJI XEROX SUPER CUP vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/fuji_xerox/01.html>)
次に与えた影響が攻撃のバリエーションの増加で、この試合クロスが増えたように感じました。実際、開始1分経たないうちに中村が浅い位置からクロスをダミアンめがけて上げたのが印象的でした。これまでジュニーニョをはじめ、高さを武器にした選手が少なかった川崎でしたが、明確に高さを武器にした選手がいるなら使おうというスタンスが見えました。
中村「制空権をとれる選手がいるんだからそこを使おうと。去年は意固地につないでカウンターで失点することが結構あったので。どこを使うかを意識した結果、点を取れた。強いところを使うのは定石。高さと強さは大事だなと思った」
(引用元:ゲキサカ「川崎Fの新オプション…攻守にフィットしたレアンドロ・ダミアン「素晴らしい選手が沢山いる」」<https://web.gekisaka.jp/news/detail/?266197-266197-fl>
元から小林も空中戦に強みを持っていたものの、それを前面に押し出すことは少なかったです。それがダミアンの加入によって今後増えることが予想されます。そうなると出し手がポイントになりますが、中央のダミアンと右の小林を使うためには左からのクロスが重要で、そうなると家長の役割が昨年と若干変わってきます。これは本人も述べていました。
家長「去年もやっていたので変わった感じはない。変わったのは、クロスぐらい。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 FUJI XEROX SUPER CUP vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/fuji_xerox/01.html>)
こうした狙いが実を結んだのが得点シーンですが、こういった形は練習試合でも見せていたようなので、今年は左で崩して右で仕留めるのが多く見られるかもしれません。
手探りな右サイドバックと齋藤学
まず右サイドバックは現時点では手探りと感じました。スタメンのマギーニョがすんなりと試合に入れるように、大島がキックオフ直後に緩いパスを出していたのが印象的でした。マギーニョは攻撃参加がたどたどしく、特にサイドでボールを保持した時の判断に迷いがありました。その原因の一つには小林との距離感が遠かったことが挙げられます。マギーニョはタッチライン際でもらいたい一方で、小林はできる限り中央のダミアンの近くでプレーしたいため、どんどん距離が広がっていきました。守田や中村の素早いサポートが必要になってくるでしょうか。
馬渡は「勝つことができて良かった。ただ、出るときはものすごく緊張した。鬼木監督からの指示も覚えていないぐらい」というコメントが嘘のように落ち着いて見えました。少ない時間でしたが、ポジショニングの良さや、何よりもパスの巧さを見せつけました。アウェイで芝が長い時に重宝しそうだと感じました。
今年の川崎は左サイドで崩して、右サイドで仕留めるのが一つのパターンになりそうですが(ザックジャパン…?)、この試合でも浦和が橋岡を上げて4バック気味にしたように、対応されることが想定され、右サイドで崩さなければならない時がいずれきます。その時までに右サイドバックの攻撃参加の最適解を見つけておく必要があるでしょう。
前線では齋藤の活かし方は今年もまだ手探りのようです。鬼木監督としては「ここからの1週間は点を取りきること、そこにもう一度フォーカスをしていかなくてはいけないかなと思っています」と言っているように、追加点が奪えなかったのがこの試合の反省でしょう。つまり本当であれば齋藤の投入は攻撃のギアを上げてもう一点取るのが理想でしたが上手くいきませんでした。今後齋藤が入る時にはトップ下には家長がいることが多いと思いますが、この試合では二人のコンビネーションが見れませんでした。開始の4人を入れ替えた後の攻撃は今年の課題でしょう。
おわりに
総じて上出来だと思いましたし、何よりも念願のカップ戦を獲得したことがクラブとして大きいです。これで一発勝負の弱さを払拭できたと証明するためにも、まずは決勝の舞台に立つことを目指したいところです。
さていよいよ来週はリーグ戦の開幕です。いきなりの「多摩川クラシコ」ということで、多くの人が待ち遠しく思っているのではないでしょうか。ここでの勝利を弾みに、リーグ開幕戦、さらにはACLの予選に挑んでいきましょう。
いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。