同郷の男 2話 注文させてくれない男
2話 注文させてくれない男
当日、テンションは上がらないので
5分前に待ち合わせの駅に着くように行った。
すでに彼は到着していたらしく、
ラインにメッセージが入っていた。
「ちょっと早く着きました。
黒のコートに紺のマフラーで
キオスク前あたりにいます。
ゆっくり来てね。」
「着いたけど。。。白のコートです。」
またno showだったらどうしようと
ドキドキしながら待っていると
彼らしき人物を発見した。
近づいていくと彼も気づいたらしく
挨拶した。
彼はマスク越しだが目が笑顔で
悪そうな人には見えなかった。
彼に案内されて駅から歩いて
予約してもらった焼肉店に向かった。
さちこは久々の初面談ともあって
そんなに緊張することもなく、
リハビリがてらに話していた。
高級そうな焼肉店であった。
さちこは入り口の看板を見て言った。
「あ、ここ佐賀牛のお店なんだ。
私、佐賀牛大好き。」
「え?そう?お肉に詳しいんだね。」
「いや、詳しくないけど
佐賀牛って結構有名だよ。」
「ふーん。」
薄暗い店内で個室に案内された。
小洒落た創作居酒屋のような造りで
焼肉屋とは思えない雰囲気だった。
彼がメニューを見て言った。
「適当に頼んでいい?」
(え、佐賀牛知らないのに?
出たよ。
メニュー表を取り上げるタイプか。。。)
少しがっかりした。
「うん、いいよ。お願いします。」
「俺よく知らんねんけど。」
(だから知らんのやったら注文の権利奪うなよ。)
「私、ハラミが好きなのでお願いします。」
「うん、わかった。飲み物は?」
「烏龍茶で。」
「呑まないの?」
「焼肉食べるときは肉の味を堪能したいので
呑まないので。」
「俺呑んでいい?」
「もちろん、どうぞ。」
店員を呼んで彼が適当に注文した。
「ナムルの盛り合わせとキムチとハラミと
カルビとタン下さい。」
「あ、私、ライス下さい。中で。」
「あと、ハイボールと烏龍茶。」
「かしこまりました。」
さちこが辛いものが苦手と言ってたのに
キムチとナムルを断りなく注文する彼に
自分勝手な一面を垣間見た気がした。
もちろん彼の会計だから彼が食べたいものを
注文すれば良いが、
自分が適当に決めると言って、
そのチョイスはどうなんだろうと
彼のせこさを感じずにはいられなかった。
さちこはタンも好きではないので
ハラミとカルビしか手をつけなかった。
結局佐賀牛はハラミだけで
カルビはどこの産地かわからない和牛だった。
「美味しいね。」
「うん。」
話題はしもい話はなく多岐に渡った。
なんかの拍子にSかMかという話題になった。
「Sなの?Mなの?」
「うーん、どっちかって言ったらSかな。
さっちゃんはMでしょ?」
「Mではないと思う。」
「そうなん?絶対Mやと思う。」
「なんで?」
「なんか見た感じ。」
「よく自称Sの男にはそう思われるんやけど
女友達には絶対Mではないってよく言われるよ。」
「ふーん。じゃあ行こうか。」
「は?」
「試してみよ。」
「いやいや、今日はやらないよ。」
「そうなん?」
「そうなんってやるつもりやったん?
なんか初対面でホテルに持ち込もうとするような
人と思ってなかったからがっかりやわ。」
「いや、そんなつもりはなかったけど
なんかそんな話になったから。
じゃあ今日はやめとく?」
「うん、やめとく。
私やる時は呑まないし食べないから。」
「なんで?」
(こんな質問をしてくる時点で
こいつのセックスは高が知れている。
自分本位のセックスしかしないタイプだな。)
「食欲と性欲は反比例してるから。
食欲を抑えるのはいい前戯になるし、
酔うと感度が鈍くなるから。」
「ふーん。じゃあ今度会うときは
やってからご飯食べに行こうね。」
「うん、それならいいよ。」
ラストオーダーから30分経ち、店を出た。
3話に続く。。。