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防災用品としての「お湯を沸かす道具」

カバー画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。
本文内の画像は私が撮影したものです。


災害時でもお湯を沸かしたい

某震災で停電被害に遭ったこともあり、防災意識は高めです。
被災以来、自宅の食糧飲料備蓄や照明整備などを行い、折に触れてあれもこれもと見直しを行っています。

最新の懸案事項はというと、「お湯を沸かすこと」。
災害時だっていつものコーヒーを飲みたいし、それでなくても温かい飲み物やスープがあればほっとできます。うちは子どもはいませんが、よくミルク用のお湯という話も耳にしますね。
ところが、お湯を沸かすというのは、案外に大変なことらしいのです。

災害時の湯沸かし、意外と選択肢が少ない

加熱剤・カセットコンロの問題点

水を加えると発熱する加熱剤(ヒートパック)は包装された食べ物を温める前提で作られており、加えた水は飲用に適しません。水も一緒に温められるタイプの加熱剤パックも発売されていますが、そもそもこの手の加熱剤系自体が水用かどうかに関係なく使い捨てでなかなかの高額です。買い集めておくのも限界があり、使えばごみが増えるとなればその点も課題と言えます。気軽に温かいものを…とはいきません。

次に温める道具としてメジャーなのはガス式のカセットコンロです。
しかし、日ごろからバーベキューや鍋をつつき合うのが趣味の人ならともかく、私などは普段わざわざカセットコンロで調理することがありません。使わないまま使用期限が切れたら処分も大変だし、近頃は夏、非常に暑いので、部屋の中にカセットコンロ用のガスを保管しておくのもちょっと怖いです。ガスボンベの保管温度は一般に40度以下だそうで、真夏の不在時の家の中が超えない保証、どこにもない…。まして災害時にエアコンが切れたら?

電池式の湯沸かしが少ない理由

ところで、何でもかんでも電池(乾電池)や充電で動く昨今、電池式や充電式でお湯を沸かすための道具はないのでしょうか?
調べてみたところ、「お湯を沸かすのは意外と難しい」ということが分かりました。

理科が苦手なのですごーくひらたーく理解したところだけ書きますが、要するに「お湯を沸かす」というのは、思いのほかエネルギーが必要な行為らしいのです。水をお湯にするには、携帯電話の充電レベルとはケタ違いのエネルギーを持続的に出し続ける必要があるということ。

電池や充電でものを動かすには、「どれだけ電気を貯めて用意できるか」と「電気を出すときにどのくらいの力で出せるか」の二つの方向があります。お湯を沸かすには、この2つの両方が大きくできないといけません。現状の一般的なバッテリーでは満たすのが難しく、満たした場合でも持続時間や耐久性に問題が出がちなようです。

また、液体を扱うということ、つまりこぼれてもいけないし、動力部分に水が触れても困ることも、電池や充電という意味では困難なところ。洗濯機が冷蔵庫やレンジに比べて高額なのと同じですね。

さらに、温度の問題もあります。何かを温めれば、当然その周りの温度も上がります。電池の類は温度が高すぎると爆発炎上につながるものが多いので、安全面も大変なようです。

そんなわけで、電池や充電で動く湯沸かしは少ないのが現状です。あるにはあるものの、非常に高額(数万円以上)か、手ごろな価格のものはお湯を沸かすときはコードをつなぎ保温のみ電池の方式を取っているか、沸騰させられるものも電池持ちが悪かったり壊れやすかったりするようです(レビューでの判断なので実情は分かりませんが)。

ソーラーでお湯を沸かすとしたら?

目からウロコの解決法として、「ソーラー発電機を電気ケトルにつなぐ」という方法があるそうです。
ただ、先ほども書いたとおり、お湯を沸かすには非常に大きなパワーが必要になります。すると、必要なソーラー発電機はどうしても、大きく、重たく、かさばる、高額なものになってしまいます。普段は使わず災害用にのみ置いておくには、ちょっと色々ともったいないサイズ感です。

食材や水の温めに特化した太陽熱利用製品(発電してコードにつなぐのではなく、直接に太陽熱を利用して温めるもの)もあるにはあるのですが、こちらはまだ技術的に開発段階と言ったほうが正しいようです。
現状すぐに見つかるのは2種類だけで、
・食材をメインに開発されたもので、フタが甘く湯沸かしには向かないとのレビューがあるもの
・お湯を沸かすだけで2時間ほどかかるという報告があるもの
です。いくら災害時でもこれではさすがに実用性に欠けます。今後この分野が発展したら乗り換えていってもいいかなとは思いますが…。

固形燃料方式

そうして最後に残ったのが固形燃料方式です。ガスボンベよりは保管温度も高くて大丈夫そうですし、加熱剤よりは安上がりで回数も確保しやすくなります。

といっても、固形燃料自体は「燃料」であって、お湯を沸かすには追加の装備が必要になります。実際には固形燃料+そのための台+マッチや「チャッカマン」などの点火装置、ということになるでしょうか。

結局我が家ではこれを導入してみることにしました。

固形燃料コンロ体験記

災害用として考慮すべき点

災害用として固形燃料コンロを購入する場合、アウトドア用とは異なる点を考慮しなければなりません。もちろん併用は可能だとは思いますが、

・使用中の余震等を考慮し、倒れにくい安定した装備が必要=軽量コンパクトはむしろ危険
・日常的に使用しない場合、燃料はなるべく長期保存でき、危険が少ないものを
・専用の鍋でなくても使えるのがベスト

この3点はアウトドアのおすすめとは別に考えなければなりません。
特に登山などのアクティビティに持って行く人向けのものはコンパクト軽量が売りの代わりに安定感が悪そうなものが多いので注意です。
また、コンパクトであればあるほど、専用サイズの鍋でないと乗らない、小さいサイズ専用、重さの限界などもあります。

災害時にはどの調理器具が使える状態で残るか分かりませんし、自分のコーヒーだけでなく家族分の調理や複数種類の飲み物、汁物など色々な利用法も考えられます。アウトドアも楽しむのであれば別ですが、災害用のみで用意するならば、専用のクッカーなどと一緒に用意するよりも、すでにある調理器具も使える汎用性の高いコンロを用意したほうが得策と言えそうです。

個人的な問題:炎が怖い

しかし導入には、ごく個人的なハードルがありました。
すなわち、炎が怖い。

私は生まれながらの水属性で、池でも川でも海でも深かろうが浅かろうがぐんぐん近づいて平気、真上から見下ろすのも全然平気、そしてたまに池に落ちている人生なのですが、反対に火となるとてんでダメ。
燃えすぎ燃え移りにまったく不安がなければ良いので台所のガステーブルは使えるのですが、キャンプファイヤーなどはもとより、焼き肉に行っても食べた記憶より怯えた記憶の方が多く残るレベルです。他人が(火と肉の)面倒を見てくれれば良いとして、一人で行ったら野菜しか食べられず泣いて帰ってくると思う。自分の部屋ではキャンドルもお香も諦めました。
そんな人が固形燃料を燃やしてお湯を沸かす!?できるのか!?

……怖いので火力調整もできて炎が見えにくそうなコンロタイプを買いました。こちらです。これなら安定性もバッチリですね!(やけっぱち)

用意した燃料はこちら。価格で言えば1回分=100円ちょっとくらいで、ヒートパック系に比べれば安価です。

・発火温度が高いので家に置いてあっても安全
・個包装で長期保存できそう
・燃えるエネルギーが高いらしい
というあたりで選びました。

届いたお品

コンロのサイズ感

まずコンロのサイズ感ですが、大き目タイプのカップ麺と比べてこんな感じ。それなりの大きさで安定感しっかりです。

実は我が家には少量湯沸かし用に取っ手が畳める小さいアルミ鍋(それこそ本来はアウトドア用の)があり、火力が弱くても沸かせるという点ではそちらのほうが良さそうでしたが、このコンロの五徳では底が小さすぎて乗らないことが判明しました。アウトドア用を避けたらアウトドアサイズが乗らないやつが来たぜ…。このくらいアウトドア用というのは普通とは規格が違うので、やはり専用とかは怖いですよね。
ミニ五徳がありますが実験としては温度がだいぶ変わりそうなので、ステンレスの14㎝片手鍋を使うことにしました。それでもギリギリ乗る感じです。大き目鍋用かな。

燃料容器は少し凹んだ場所にある

画像では分かりにくいのですが、ひっくり返してみると燃料ケースは若干地面から浮いた位置にあり、裏側が熱くなる心配はあまりなさそう。念のため段ボールを敷いて実験しましたが、段ボールにも異変はありませんでした。

湯沸かし実験

さて、ではこの装備でお湯を沸かしてみようと思います。
の、前に、ちょっとした注意を。

***重要必読***
今回の実験は屋内で行っています。というのも、我が家のベランダは大家さんから丸見えなので、災害時なら別に許されると思いますが、平時に火を燃やしているのは問題になりそうだったからです。
しかし、今回使用しているエスビットの固形燃料は、アルコールを使用していないので発火温度が高い代わり、ごくわずかながらシアン系有害物質が発生すると言われています。本来、屋内での使用は禁止だそうです。
今回の実験は上記のような状況から、あくまでも1回限りの実験であることを前提に、自己責任のもと、可能な限り換気した部屋で行っています。安易に屋内での燃焼を真似するのは危険です。本記事を読んで購入される場合は購入する燃料の性質を理解し、安全を第一とするようにしてください。
また、我が家でやるときは火災報知機の位置を確認し、離れた位置で行っております。うっかり鳴らしてしまっても責任は取れませんので、そちらもあらかじめご確認ください。

はい、注意が終わったので、点火!
火をつけた途端にぶわっと燃えるのがすごく怖いのですが(マッチも点けられなくはないけど苦手…)、かなり穏やかに火が移ってくれたので安心しました。ちょっと独特のにおいがします。有毒な物質はごく微量だそうですが、なるべく離れて吸わないようにしておきます。

燃料入れには煤防止&片付けの利便性向上のために、アルミ箔を敷いています。よく見たら五徳の穴がハートマークでかわゆ。

少し火を絞っています

手前のバーで火加減を調整することができ、これを完全に閉めるとなんと固形燃料にあるまじき「消火」が可能であることが分かりました。長期放置は怖いですが、それこそすぐにまた利用する予定があるのであれば、一時的な消火が可能なのは助かりますね。

バーの可動はややクセがあり、あまり細かい調整はできません。といっても、ここでいう火力調整というのはコンロで言う出力の強火弱火とはちょっと違い、酸素量によって火そのものを調整するという話なので、そこまで細かい調整が必要なこともないと思われます。そう考えるとガスコンロって異様に便利な道具なんですよね。

そして分厚いステンレス鍋ゆえの心配もよそに、なんと数分でもうポツポツと小さい泡が…!(鍋が汚い?気のせいです)

開始約3分

火にかけてから7分後、無事にカップ麺に指定された420mlのお湯が使用できる程度に沸きました!参考までに、暖冬1月の関東の夕方、水道水を使用し、室温は窓開け状態で10度以上15度未満くらいです。

鍋をよけた様子

鍋が乗っているときの景色は普通のコンロなだけに、鍋を除いたときの景色が異次元すぎて笑う。ガチ・炎。
でもこのくらいしっかり囲われていると、炎が怖い私でもあまり不安に襲われずに済みました。外だと風を前提に、周りの物品を気を付ける必要はあるかもしれないです。そういえば固形燃料は風に弱いそうですが、この形態だと風防もしっかりできて良さそうですね。

もしやこのまま2周目行けるか?と水を追加して乗せてみましたが、さすがにそこまではいかず鎮火となりました。12分燃焼なので、70度くらいで十分であれば、素早く入れ替えればギリ2周行けるかも?くらいです。あとは薄い鍋を使うとかですね。

使用後の様子

使用後は、燃料ケースの調整蓋に跡が残ったのが確認できました。煤はあまり多くないですが、やはりアルミ箔を敷いたのは正解だったかな。

総評

やってみた結果、コンロタイプなら災害対策として「アリ」!と分かりました。炎が怖い私のようなタイプでも、しっかり囲える安定感の高いタイプなら大丈夫かもしれません!

このサイズなら保管してもそれほど邪魔になりませんし、1回あたりのお値段も少な目で済みます。この値段ならまあ、災害時、1日1回くらい使ってもいいと思えるかな。
それに装備としては、災害以外で鍋をする等の屋内で使いたい用事ができたら、屋内でも使える燃料を買ってくれば良いわけですしね。災害やアウトドアだけに決まったわけではないのも良いです。

デメリットは燃焼時の有害物質の問題と、必要な部品が多いこと。コンロ、固形燃料、着火装置、鍋と、すべて揃ってやっと機能する装備なので、持ち出したりするのはちょっと大変ですし、家の中がめちゃくちゃになったりしたら全部探すのも宝探し状態になって大変かも。
持ち出しを考えるならやはり安定感を犠牲にしてアウトドア特化のものを揃えるのが良さそう。また、他の方法も少しは用意しておけば安心感が上がりそうです。

まとめ

災害時の湯沸かしは一長一短。
・加熱剤:便利だが高額でごみが多い
・カセットコンロ:便利だが燃料の保管が課題
・乾電池やコンセント充電式:バリエーションが少なく実用性に課題
・ソーラー発電機:電源の心配をしなくて良いが、重い・高い
・ソーラーパワー(太陽熱):なくはないが、開発段階
・固形燃料:それなりに手ごろで保管もしやすいが、必要部品が多い

自宅に合った方法を模索しつつ、複数の方法を用意しておくのが結局いちばんなのだと思います。

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