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透明日記「空は眼球のベッド」 2024/12/10

起毛の布団カバーに包まれて、目が覚めてすぐ、ヤドカリになる。安心無敵の最強の城。冬の時期に突如として寝室に現れる起毛の城。

しかし、人間のぼくはヤドカリになりきれない部分もある。鼻が冷える。窓ガラスみたいに冷える。肩も少し出ていて、冷える。

冷えるから、顔を布団に入れ、門を閉ざす。起毛の布で、大事なものを包むように鼻を包む。あんまり暖かくならない。部屋の冷気にバレないように、サッと布団から顔を出し、リモコンで暖房をつけ、サッと城に帰る。

身体があったまったなあと思うと、身体が液体みたいに膨らんで、にょーっと布団から顔が出る。うつ伏せになってスマホをいじって過ごす。

十分にあったまってくると、外に出ようという気持ちが湧いて、城の外。活動が始まる。

言葉でなにかを作ろうとしていた。捗らない。音楽を聴いているうちに昼になって、散歩する。

最近は猫に会えるかなと思って夕方の散歩が多かったので、昼間の散歩は久しぶり。晴れ晴れとして、光がみずみずしい。ぽかぽかとして、少し暑い。

道の端、丈の短い草の色がいい。まだ枯れ切らないで、葉先が薄い赤茶に染まっていた。根元の陰に緑が残る。赤茶けた草々の乾いた感じが侘び寂びで、見る目に色褪せて涼しい。

枯れ色の丈の長い草々がカラカラと鳴る。茎の一部は日にちの経ったバナナのように黒ずんでいた。

枯れた風が吹く。心に枯れ色が差し込む。

どこかでセキレイがチッチと鳴いた。空が弾む。川にはシラサギが群れて、突っ立つ。冷たくないのか、冷たすぎて動けないのか。少し歩くと、川の石段にもシラサギがいる。川鵜の集団に混じり、川鵜とともに置き物のようにじっとしていた。

小さな中洲にも川鵜の群れがある。下流の方をみんなで見つめ、見つめているうちにみんながみんな、どうして下流の方を見つめているのか分からなくなっているみたいだった。今更聞くのもアレなので、という理由で仕方なく見続けている雰囲気が出ていた。

中には二羽、怠くなってお腹を地面に付ける者もいたが、顔だけは首を伸ばして上げていて、下流の方を向いていた。

空には雲の塊がいくつか流れ、ときたま太陽を隠した。光に溢れた川辺の道の向こうから、大きな雲の影が迫ってくる。影に覆われた空間がドアを閉めたように静かになっていくようで、静けさが迫るようだった。

ほどなく、影に包まれる。光と影の境が過ぎるとき、さわっという音が聞こえた気がした。

影に入ると冷える。しばらくすると、雲が太陽を過ぎ、道の向こうからこっちへと、光の世界が近づいてくる。

日差しに照らされた瞬間、照らされた空間がわあっと華やぐ。スタジアムの観客のウェーブみたい。手こそ上げなかったけど、日差しが身体に当たると、わあっと心が華やいだ。

どこまでも歩けるような気がして、いつもの倍ぐらい遠くまで行く。川辺の開けたところの階段で休む。

地面が広いと、視界が広く感じられる。目にじわあっと広がりが染み込むようで、目が安らぐ。空は、眼球のためのベッド。眼球は途方もない大きさのベッドを必要とする。

休んでいると、地面に鳥の影が走る。すごい速さの黒い鳥。

しばらくして腰を上げ、音楽を聴いて帰る。いい散歩だった。とても満足。気持ちがゆるゆると踊る。

カフェで作品を作ろうと思った。頭から言葉が出てこない。あまり書けないので、昔に書いたものをいくつかリメイクする。案外、面白いものがいくつかあった。それから少し本を読んで、フルーツなどを買って帰る。

ジャガイモを細長く切って焼いたものを間食とする。

言葉がいい感じに出てこないので、音楽を聴いたり探したりして過ごす。東郷清丸というアーティストが気に入った。1stアルバムを頭から流しながら、どの曲が人気なんだと思って楽曲をスクロールすると、一回でスクロールが終わらない。60曲入っていた。一曲聴いて良かったのもあるけど、アホみたいな量の曲を1stに詰め込むというやり口が気に入った。

数ヶ月前からたまに聴く、ほぶらきんの「ゴースンのテーマ」を何回か聴く。楽しい。聴いた後に好きなところを歌っていると、心がほぐれる。なんだか、言葉が書きやすくなった。

晩飯にトンテキを食べ、ながながと日記を書く。夜中、西の空に丼ぶりみたいな月を見る。筋を広げて光っていた。頭上には冬の星が広がる。薄雲が出るのか、空はほの白い紺色で、目に優しい気がした。

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