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透明日記「三が日、食べて寝転ぶ」 2025/01/04
三が日がようやく終わった。食べて寝転んで過ごした。年末年始は困る。店は閉まるし、人の多いところは人が多すぎるし。三日を過ぎると、少し戻って気が楽になる。初夢は焼きそば屋。膝に荷物で席に着いて目が覚めた。
朝、電動歯ブラシが届く。モードの選択が四つあって、ボタンを押すたびに違う音が鳴る。25年ぶりぐらいの電動歯ブラシ。昔の使い心地は覚えていない。歯磨きが新しくなると思うと、ワクワクした。希望に満ちて洗面所に向かう。
電動歯ブラシはこしょばかった。特に、上の歯の裏側に当てると唇が猛烈にこしょばい。笑いを堪えて眉を寄せ、目を細くして口角を上げる。般若のような顔になる。
耐えられなくて口から歯ブラシを出すと、ブラシに付いた唾液が細かく飛ぶ。汚ない。慌てて口にブラシを入れる。ひと呼吸つけて歯を磨く。へらへらする。
磨き終わると、ひとしきり笑い終えたような感じになって、心が晴れる。なんか楽しかったなあと、しばらくのあいだニヤニヤしていた。面白いので、しばらく使おうと思う。
日常に変化を加えるのは楽しい。
朝はスズメがベランダにいっぱい来ていた。手すりに六羽ぐらいいる。多いなと思って、屋根を見上げると、屋根のふちにも15羽ぐらい並んでいた。新年の挨拶みたい。多いのでエサはやらず、追い払った。
しばらくすると、人になれた意地汚いスズメが一羽、ずっと部屋の中を覗いてくる。一羽なので、エサをやる。
昼過ぎ、散歩に出かける。川辺は風が強い。着込んでいたので寒くない。舗装された道の両端は薄茶の枯れ草ばかり。膝の皿ぐらいの大きさの、丸い枯葉をつまむ。くしゃっと鳴るかと思ったら、しんなりしていて、案外触り心地がいい。
土手を降りて歩く。頭上には、大きな雲がぼわぼわしてて、象が鼻を振り上げて笑っていた。地上では、枯れた草の葉のたわんだところが、太陽の光を反射してまぶしい。土手の斜面の緑の草も柔らかく光を返す。草はよく光る。歩くうちに象はいなくなっていた。
土手のあちこちでたこあげ。クシャクシャ音を立てて三角のものが飛ぶ。
橋の下で少し休む。ハトの群れが橋の裏に休む。クルクル鳴く。雨が降らない川には砂地が広がっていた。
対岸の砂地のふちに一羽のカラスが見える。川に足を浸け、水を飲む。砂地に上がり、砂地を突く。砂地に刺さった棒が気になるらしい。棒を眺めてつついていた。しばらく棒に寄り添って、近くにあったビニールの紐を咥えて顔を上げ、捨てる。ビニールの紐が風に流れる。やっぱり棒が気になる。棒をつついて、棒のそばでじっとする。なんだか棒が気に入ったようで、愛おしい。
遠くの砂地にも、そんなカラスがちらほら動いていた。幼稚園の自由時間みたいだった。近くに灰色の体に顔だけ茶色いカモがいた。ふらふら泳いで助走もなく飛び立つ。
同じ種類のカモはあちこちにいた。ふらふら泳いで、川面をつつく。お尻を上げて振る姿を期待したけど、川面をつつくだけだった。
砂地にはセキレイが小さな影となって鋭く動く。独特の細かいリズム。
川を見ていると、視界のあちこちでばらばらな方向に鳥が動く。同じ時間を各々のルールで好きに過ごしている。いい。よく分からないルールで生きていて面白い。
夜は兄と上の姪が家に来る。部屋に寝転んでいると、姪が部屋を覗く。見てはいけないものを見たかのように、チラッと見て逃げる。ぼくとは喋らない。話し掛けると、何もない空間を見つめてフリーズする。食後はひとりでちいかわの塗り絵をして遊んでいた。ぼくが、ではなく、姪が。
ぼくは短い文章を作っていた。小さめのノートを開いてペンを持ち、寝転んだり、タバコを吸ったり、姪やテレビを眺めたりする。
文字の書かれていないページに目を落とし、なにかが書かれるのを待つ。
なにかが書かれると、似合いそうな言葉が続いていく。いくつか書くうちに兄が帰る。姪は、おやすみとバイバイだけ目が合った。
今日は小さめの加湿器も届いた。ちょっとは乾燥がマシになればと思う。加湿器を買うと湿度計も欲しくなるし、もっと加湿したくなる。タオルも二本干しておいた。
電動で歯磨いて寝る。口の周りにはこしょばさが張り付いていた。