遠く
「あいたいって、あたためたいだ」
駅の売店のテレビが、そう嘯く。
なんだ、自分のことじゃないかと
影響されがちな自分は、誰かを想う。
首からヴィンテージのカメラを下げ
空に向かいシャッターを切る自分を
誰かは「トランペット奏者」と呼ぶ。
抜けるような青空、冬の訪れ、氷点
深緑のピーコートから覗く肌色
紅いチェックのマフラーの上の笑顔
その頬は、少しだけ赤らんでいた。
頭に浮かぶ誰かは、特定の誰かだ。
その頬にあいたいって思わせるのは
あたためたいと想う心の仕業だ。
すこし立ち止まって、
見上げた空は、紅色だ。
眼下に広がる銀世界は、深緑だ。
涙が凍って、銀に落ちた。
右手をあたためる人は、遠くだ。
あいたいって、あたためたいだ。