開かれなかった扉 (その3)

若い頃、オレは夜行列車の窓から見える街の景色や家々を眺めながら、「この街・この家で自分が生活してたら人生はどうなってたんだろ」なんていう感傷によく浸っていた。
そのことを思い出す時、上掲動画のような、ブラジル人の創り奏でる音楽が心境へと流れてくる。アントニオ・カルロス・ジョビンの曲や、その他諸々。

『そーいう気分のことを、ブラジル人は”Saudade“っていうんでしょ?
”郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つポルトガル語。他言語に翻訳し難い複雑なニュアンスを持つ“ っていうさ』




上掲の音楽・作曲者(ギターを弾いている人)を知ったのは二・三年前のこと。それまでブラジル音楽についてある程度は知っている積りだったのに、この人のことは全然知らなかった!
偶然が重なり、ある日突然に街のレコード店で知るに至ったわけだが、もし ”開かれない扉“ の向こう側に在ったこの音楽・この人を発見出来なかったら、本当に勿体無いところだった。そしてオレは再び夜行列車の窓際に戻ってこう思う。
「窓の向こうのあの家に、僕を動かす音楽家が住んでいるかもしれない」

まだ、どこかに、きっといる。 (続く)

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