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BANANA FISH 感想 8巻 名シーン第二位

今、この記事を書くために8巻を読み返しています。

7巻まではパラパラ~とめくりながら感想を書いていました。(ほとんど覚えているからね、読み返し過ぎて)

8巻読んでたら普通に読んじゃったよ。涙止まんないわ。そして読み返すたびに新しい発見があるね。……なんか気持ちが重くなってきたな。

私は7巻から本編だと書きましたが、一つの山場はこの8巻にあると思いますので、そのあたりも書けたらいいな。英二とアッシュの関係が7巻でカンスト(=最高潮に達する)するから、クライマックスが8巻って感じですかね。

"オニイチャン"呼びの初出は8巻

アッシュが英二を揶揄ってオニイチャンと呼ぶのは8巻からです。実は7巻では"お兄さま"とは言っていますがオニイチャンとはまだ言っていません。

私、なんとですよ、読み返すまでアッシュが年下なの忘れてたんだわ!これめっちゃ重要なんだよね!なぜなら、英二のほうが年上でアッシュは英二に実兄(グリフ)を重ねているから!なぜ重ねているか?英二もグリフも共にアッシュを愛してくれた人だからです。

もちろん揶揄って言っている冗談なんだけど、アッシュの行動には何かしらの意味があると…思わずにはいられないから……。

喧嘩するアッシュと英二

8巻の最大の見せ場はもちろん喧嘩するアッシュと英二でしょう。喧嘩するほど仲がいい。二人が親友になった証拠だと私は思うね。立場も、育った環境も、文化も、考え方も、すべて違う二人が。。。そりゃ喧嘩にもなるよね。でも二人は親友じゃない?なんでだろうって考えるけど、でも理屈じゃないんだよね。二人の関係は。

正直BANANA FISHは、8巻のこの喧嘩のシーンが全巻を通し、名シーンの第2位だと思う。(第一位は絶対譲れないところがあって、決めてるから、お楽しみに。)

ねえ、唐突だけど、BANANA FISHを読んだことがある人と読んだことがない人で人生変わると思わない?それくらい衝撃の素晴らしいシーンなので、もう感想なんてマジで蛇足なんだよな。語りますけども!!

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「きみは無抵抗の相手に銃をむけるような人間じゃなかったはずだ!」「――アッシュ それは強者の理屈だ」「ぼくの――スキップやショーターのよく知ってるきみじゃない!!」(BANANA FISH 8巻より)

まず引用したこの三つの台詞。英二は正しくて多分アッシュは分かっています。分かってて裏切り者を無残に処刑してるんですね。

じゃあ何がアッシュを変えてしまったのか…?

それは多分、兄の死と、そして、ショーターの死だと思います。兄の代わりに英二がそこを埋めようとはしている(詳しくは5巻感想を読んでね)んだけど、ショーターの空いた席にはもう誰も座っていないんです。

ショーターを貶めたオーサー(とゴルツィネ)を絶対に許さないとアッシュは決めた。だから容赦しなくなった。全身全霊でやり返すって、きっと決めたんですね。それが良くないことだと、復讐に駆られた獣になってしまうということは、アッシュにだってわかっている。だから英二に指摘されて図星で、怒るわけです。

英二に7巻で救われたアッシュです。本当は人殺しなんかやめて、もう収まっても良かった。怒りという刃を収めてもいいくらい、英二がいやしてくれた。だけど、それでも手を緩めなかったのは、ショーターのために腹くくったから。つまり、ショーターを殺めたことへの贖罪でもある。英二もきっとアッシュにとってかけがえのない一人だけど、ショーターだってそうだったんです。オーサーとゴルツィネをやり込めることで、ショーターへの弔いにしている。

次に、英二側の真理について考えてみます。

私はこのアッシュの図星をつくような鋭い発言は、感受性豊かな英二にしては失言だったと思う訳です。鋭い指摘なんですけどね。だって、アッシュが傷ついてしまうかもしれない台詞だから。でも、どうして言ってしまったか、読み返してわかりました。

アッシュが無理して弔いの復讐をしていることに、心の底で気づいていたからだと思います。つまり、アッシュ自身やりたくてやっているんじゃないってことに。だから、やらなくていいんだよって言ってあげることが優しさだと思って言うんですね。でもアッシュの意思は固い。ショーターの為にしなければならないと思っている。そして、アッシュのいる世界はそういう世界である。日本に帰れる英二とは違う。アッシュはショーターを弔う義務があり、そうしなければならない立場なんだ。育った環境の違う英二はさすがにそこまでは気づけなかった。アッシュも頑固だしね。

ただ、英二はこのアッシュの発言で気づきますよね。

8巻の喧嘩のシーンは、全巻通して名シーン第二位と言いましたが、その決め手となるのはこのセリフ。このセリフをアッシュに言わせた吉田先生、あなたは神ですよ。神の子です。この世の創造主です。

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「才能なんて―――そんなもの…もしオレにあったとしても…オレはそんなものほしいと思ったことは1度だってない!!」(BANANA FISH 8巻より)

このセリフについて語ることは何もありません。何を言う必要もないくらい素晴らしいから。これは全人類が記憶してしかるべき一文です。アッシュ・リンクスのすべてが、この一文に凝縮されている。人は本当に感動した時、なんといえばいいのかわからず、言葉を失う。だから言う事はありません。

キリマンジャロの雪

英二はすぐに自分の失言に気づき、仲直りしにアッシュがいると思われる図書館に行きます。

私さ、実は図書館にいるアッシュがとても好きなんです。一人になりたい時にアッシュは図書館に行くと、ボーンズが言いますよね。ちょっと涙が出そうになるんだけど、アッシュがもしああいう生い立ちでなければ、図書館で勉強する普通の優秀な学生だったりするのかなとか思って、ね。銃でドンパチやるのはアッシュの外側で、むしろ、静かに図書館にいるアッシュのほうが内側なんじゃないかって。そう想像すると、なんだか胸が熱くなってしまって。

前置きはさておき、ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」の引用のシーン。ここかなり重要ですが、私は正直初見の時は読み飛ばしていた。意味わからなくて。

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もう何回も言ってるけどこの辺ストーリーが面白すぎて、こういう台詞長いところほぼ頭に入ってないんだよね。ちょっと分かりにく……難しいし(落ち着け)

落ち着いて読み返すと、豹=アッシュで引用しているんだということは明白。憑りつかれた様に高みに高みに行くことが正しいことなのか自問しているんでしょうね。

これはだれしもあることではないですか?だから皆アッシュに感情移入してBANANA FISHで泣くんだろ?

アッシュほどではないにしろ、本当にこっちに進んでいいのか?自分の行いは正しいか?と思う人生の岐路はみんなある。このアッシュの自問はみんな一度は経験あることなんだよね。だから感情が入っていくわけ。

「死にたいと思ったこともない」(BANANA FISH 8巻より)

私がアッシュのことが好きなのは、つらい思いを幼少期から経験してなお、死にたいと思わない、威厳と尊厳のあるキャラクターだからです。もう好きとか俗っぽい表現すら、彼に当てはめるのを憚られる。なんというか、美しさすら感じますね。そりゃ皆惚れるわけだ。

英二がうざくないのはなぜか

アッシュに皆惚れるのは自明の理。

こういう物語で私は大体英二ポジションの人間が嫌いです。なぜかというとユーシスがさんざん言っているように、アッシュの弱点となる存在だから。

アッシュの為を思えば思うほど、「英二を切れ!!」「英二さえいなければ……!!」とユーシス思考になるわけ。あれ、もしかして私がユーシスのこと嫌いなのって同族嫌悪……?

でもねーBANANA FISHのすごいところはねー、英二がうざくないんです。そしてユーシスがウザいんだよ。

アッシュの立場になって考えた時にね、英二は絶対的天使だから。アッシュの為を思えば思うほど「英二と一緒にいて!!」「英二から離れちゃだめ!!」って思考になるんですよ。それがまじでBANANA FISHのすごいところなんだわ……。

つまりアッシュを救っているのは英二だという描写が秀逸なのがすばらしいってこと。

普通の漫画だとヒロインは、主人公に助けてもらうだけなのよ。主人公はヒロインに惚れているからね。

でもアッシュと英二は完ぺきなギブ&テイク。お互いに共依存しているバランスの取れたカップル構造。だから二人の関係性を推せるんだよね。

8巻読み返しててマジこれ思ったから書いておくね。英二ウザくない。

アッシュに気づく英二

とても厚くて硬い殻に閉じこもったパルシェン(ポケモン)みたいなのがアッシュですよね。防御鬼強なわけです。で、そんなアッシュの本音を見破るのが英二。アッシュという人間に気づいてあげられるのが英二。その機微が8巻で描かれています。ダイジェストでお伝えします。

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生き残るために捨てたはずのカタギの世界。英二と出会って戻りたくなる。だから英二に帰国の話を持ち出せない。(この手書きで書かれた「失敗」の吹き出しがなければ私も気づかなかったですが)

「周囲が許してくれない」とアッシュはまるで自分自身に言い聞かせているようですね。全然わがまま言わないよね、アッシュ。英二と一緒に居たいってその願いだけは絶対かなわないってあきらめてるのかな。はたから見れば全部持ってるように見えるのに、望んだものは何も手に入らない。アッシュに読者が感情移入するのは、そういう経験がだれしもあるからなんではない?


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冷酷とも思えるほどのタフなリーダー・シップも何物も恐れない精神力も すべてはあやうい魂をおおい隠すためのものなのか だとしたらなんて残酷なんだろう(BANANA FISH 8巻より)

はい、英二がアッシュに気づきました。

これが、8巻がクライマックスである理由です。

おめでとう、二人は結ばれたね。ってなわけです。

私がBANANA FISHの漫画を片手に何千文字も書いて考えてやっと理解しつつあることを、英二は一瞬で気づくんだから。だって今お前8巻だろ?すごすぎやしないか。私は20巻まで読んでなんならアッシュの過去まで知っててやっと整理できつつあるレベルやのに。


次は9巻。オーサーとの戦いに決着がつきますね……。お楽しみに……。

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