【エッセイ】猫舌でよかった
「猫舌ってのもある意味不幸だな」
子供の頃、親戚の家で出来立てのラーメンが熱すぎてなかなか口に含めずにいたぼくに叔父のひとりがそう言い放った。猫舌のぼくをよそに叔父の方は激アツをものともせず、すいすいとラーメンを頰張ってゆく。ぼくはその光景を不思議な気持ちで見ていた。
そして大人になった今、相変わらず猫舌のぼくは家でつくるたこ焼きをおそるおそる口に運んでゆく。猫舌というのは大人になっても変わらないものらしい。
しかし、今はこう思う。むしろ猫舌である方がゆっくりと味わうことができる、だから料理の味がよくわかるのだと。
猫舌は不幸ではない。食べることの幸福、ひいては生きることの幸福に気づくきっかけになる。
猫舌に生まれて本当によかった。