しゃべるATM
さびれた場所にあるATM。火曜の午後、サングラスにマスク姿の若者が現れた。通帳を入れた時、「兄ちゃん、取引せえへんか?」の声にギョッ⁉
「ここや。ATMやがな」
なんと、しゃべっているのは機械。
「あんた『オレオレ』の受け子やろ? 〇〇県のばばあ騙して200万振り込ませたな」
「な、なな……」
声を無視して操作しかけ、見慣れぬボタンに指が止まる。「『ノル』『ヤメトク』?」
「ごっつい儲け話があんねん。受け子なんてせこい仕事よりなんぼか楽でガッポリや」
「……どんな取引だよ?」
「『ノル』ボタン押して、俺と交代してくれ」
「はあ?」
「ATMや。なんぼ大金がある思う? 用済んだらすぐ戻るし」
「……わかった」
誘惑に負けた若者。『ノル』ボタンを押すと瞬時に機械へ呑み込まれ、別の若者が現れた。
「あ~やっと出られた。詐欺なんてコリゴリや。あんたも次の受け子来るまで頑張りや」
足早に外へ――自動ドアが、無慈悲な音を立てて閉まった。