橋村豊写真の話

カタストロフな出来事を撮影し写真作家活動をしています。 photobook 「terr…

橋村豊写真の話

カタストロフな出来事を撮影し写真作家活動をしています。 photobook 「terrestrial」「terrestrialⅡ」販売中

最近の記事

Terrestrial Between Chaos and Orderその2

自然の中で美しいと感じ心が落ち着く光景はどのような場所だろうか。花が咲き乱れる場所や一輪の花に美しさを感じることは誰もが経験する。しかし、特に華やかさがなくても心を惹かれることがある。それは無秩序に広がる多様な手付かずの自然環境を見ている時だ。それらの生命の中で起きている破壊と再生の繰り返し、その生命力が生み出す多種多様なパターンや形に魅せられる。 これらの現象は私たちの身体内部でも起きており、その中に入ったり見たりすることで自然と同化し気持ちが和らぐのかもしれない。 しか

    • Terrestrial Between Chaos and Order

       生命力と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。元気さ?活力?スタミナ?健康?、どれも該当するでしょう。熱いコーヒーは時間とともにさめてゆく、万物の物は熱力学の第二法則により、秩序ある状態から無秩序へと向かうとされ生命も秩序ある状態から無秩序へと向かう。しかし生命の場合はこの法則をはぐらかし無秩序へと向かうことを遅らせる。なぜ遅らせることができるのか。  例えば蒸気機関車のシリンダーとピストンがある。ここに圧縮空気が注入されるとピストンはシリンダー内を動き仕事をする。この時、エン

      • よい森林とは?

         2023年年6月2日は台風に刺激された梅雨前線により、静岡県内は線状降水帯が発生するなど大雨の1日になった。上の写真は今年の3月に川の沿岸で崩れた箇所に土嚢が積まれた状態を撮影した。この時は何か工事の準備と思っていたが、違ったようだ。 次の写真が、同じ場所で撮影した今日の状況だ。土砂が崩れながれたのか片側の土嚢は崩れているのがわかる。ちょうど撮影中に、山主の方とお話しできた。「こんなことやったってダメなんだよ。」崩れた状態をなんとかしようと行政にも相談しているが、その結果

        • terrestrial②

           ブルーノ•ラトゥール(フランスの人類学者)は著書「地球に降り立つ」のなかで、グローバリゼーションが地球環境にもたらした影響により地球が反発していることをうけ、ローカルでもグローバルでもない第三のアトラクター、「テレストリアル」に向かうことを提唱した。しかし、そのベクトルの方向は定まってはいない。 今後、私たちはどうすれば良いのか?  昔に帰り生活方法を学んでいくのか? 往古の知恵を見直していくべきだろうか? それとも近代化以前の文化を学んでいくべきだろうか? いずれもありで

        Terrestrial Between Chaos and Orderその2

          terrestrial①

           数年前、八丈島で戦争遺構を撮影しているとき、帰りのj飛行機まで時間があったので、案内してくれたタクシーの運転手さんが、空港近くではあるが島内を案内してくれた。 その時、「ここ数年は温暖化の影響で、てんぐさが採れなくなった」ことを聞いた。それから数年後、「terrestrial」とういう言葉に出会ったのは、フランスの人類学者 ブルーノ・ラトゥールの著書からであった。 「terrestrial」という言葉をラトゥールは「地上に降り立つ」という意味で使い、現在人は未だに「地上に降

          山が荒れると•••

           台風15号接近に伴い静岡県に線状降水帯が発生している。 県内の多くの川で氾濫危険情報、または氾濫警戒情報が出ている。 自宅から約500mほど離れた川も、氾濫危険情報となっている。日付が変わる前に一旦、雨の降り方も弱まり氾濫注意情報となったのだが、また、強い雨が続くことで危険情報へと変わっていった。  自宅付近の雨が弱まっても気象レーダーで確認すると上流付近では強い雨が確認できるから安心はできない。 ここで思い出したのは、山の中で竹林を撮影中に会った農家の男性との会話に中で

          山が荒れると•••

          メタ認知

          https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1029294 やはりね類似災害は繰り返される。  これは事故、労働災害、交通事故、アウトドアでの事故など全てについて同じ、そして戦争も。 関係者が、自分達は大丈夫、これだけマニュアル作ったんだから、準備したんだから大丈夫、という考え方でいるとそこに重大な落とし穴が発生することになる。勿論、事故を予防するための準備は必要だ。自分自身、屋外で撮影をしているから、事故を防ぐために、低体温症予防、応

          terrestrial II

           昨年のArtBook terrestrial に続き、terrestrial IIを制作し、7月1日から六本木の富士フィルムフォトサロンで開催されいているARTBOOK INNOVATIONに参加させてもらっている。 terrestrialでは、崩壊していく自然林、放置され荒廃しつつある人工林や竹林など荒れる山間地を撮影してきた。荒廃は温暖化の影響による気象変化により激しさを増してきているようである。山が荒れれば、海が荒れる。勿論それは、見た目の光景ではなく植物プランクト

          写真論を読んで

           写真論 港 千尋著 を先程読み終えた。考えてみれば久々の写真についての本でもあった。 その中で印象に残ったのは、第四章の「黒人写真史のために」に登場する、ライフ誌と最初に契約した黒人写真家ゴードン・パークスとその経歴についてだ。 アメリカの長距離列車のポーターについたパークスが、客が残していった雑誌に掲載されたドキュメンタリー写真に刺激を受け、ある日の終着駅のシアトル街の質屋でカメラ購入して撮影、その現像結果をみた写真店の受付が、ファッションカメラマンとしての仕事を紹介、そ

          写真論を読んで

          2021年12月展示を巡って

           毎月、数ある都内のギャラリーを巡って刺激を受けてきたが、ここ1年半は出ることが出来なくなっていた。感染も落ち着いてきたこともあり、12月11日に久しぶりに出かけることができた。その中で、必ず行こうと決めていた3つの展示について簡単な感想を書いてみました。 1  井津 建郎 もののあはれ   PGI  タイトルの「もののあはれ」という言葉は、古代より人の生活の一部として存在していたと言われると書かれている。 ウキペディアによると、「もののあはれ」とは平安時代の文芸理念・美的

          2021年12月展示を巡って

          メタ思考について

           最近になりメタ思考という言葉を聞くことがある。メタ認知能力という言葉については以前から使う機会があったが、メタ思考と聞いたときは、メタ認知との違いは何か?単に認知と思考の違いか、それとも他に何かあるかと疑問が生じた。そこで改めてメタ思考について考えてみることにした。   認知心理学の中では、メタ認知という用語があり、それは認知の中の認知という意味である。例えば、ヒューマンエラーを考える時、エラーは人間の特性でもありゼロにすることはできないが、努力次第で減らすことは可能とされ

          メタ思考について

          山林と太陽光発電

           静岡はお茶の産地で有名であるが、山を切り開いて作られ、斜面を利用した茶畑の管理は、高齢となった生産者に管理が大変なようで、最近では放置された茶畑が散見される。 以前、山の中で撮影していたら、農家の方に「ソーラーの人ですか?」と声をかけられたことがある。それだけ、太陽光発電関係の営業が山間部の地域を訪問しているのであろう。 電気エネルギーの需要は減る事はないだろうし、放置された山林や農地を太陽光発電施設に変えていく事は、土地の有効理由として肯定的に受け止めれれるかもしれない

          山林と太陽光発電

          ゲーリースナイダーを読む2

          バイオリージョナリズムと道元  ゲーリースナイダーは1956年から約10年、京都大徳寺で臨済禅の修行に励んだ。以降、1970年以降バイオリージョナリズム運動に関わった。そのバイオリージョナリズム運動について「できるだけ自然の生態系に沿うように、政治的な境界線を引き直すことを要求するものである」と述べている。その知的背景には、アメリカ先住民の文学、中国詩、日本の能、謡曲と並んで仏教、特に道元の思想が影響している。スナイダーは道元から何を学んだのだろうか。  道元(1200〜1

          ゲーリースナイダーを読む2

          ゲーリー・スナイダーを読む 1

           ゲーリー・スナイダーは、1930年にアメリカに生まれた91歳の現役の詩人である。スナイダーは詩を通じて人間と自然の新しい関係性を提示している。 その関係とはバイオリージョナリズム(生態地域主義)という考え方だ。 人類はこれまで、自然と人間を分離して考えてきた、スナイダー自身はアメリカ先住民の研究によって、西洋文化にはない、自然と人間の連続性を見いて出している。そして、スナイダーは西洋文明を自己破壊的だと批判するとともに、キリスト教が持つ破壊的な政治力は魂を救うと称して森の生

          ゲーリー・スナイダーを読む 1

          台北ビエンナーレ2020

           2020年台北ビエンナーレは、フランスの哲学者ブルーノ・ラトッール氏とキュレーターのマルティン・ギナール氏が共同でキュレーションを行い、エヴァ・リン氏がパブリックのキュレーターを務めた。 テーマとして掲げられていたのが「YOU AND I DON’T LIVE ON THE SAME PLANET(あなたと私は同じ星に住んでいない)」。 それに対し57名のアーティストが参加し、研究者とのコラボレーションも行われた。その中から気になった作品について感想述べてみたい。 ➀フェル

          台北ビエンナーレ2020

          8×10

           ここでは何故、撮影するに手間がかかる大判カメラ8×10を選択したのかに触れてみたい。カメラをスクエアのハッセルブラッドから8×10大判に変えたのは、現在のterrestrialの基となった安倍川上流の大谷崩れを開始した後であった。 大谷崩れは宝永地震で山体が崩壊した後も、二つの断層に挟まれていることもあり、崩れと大雨時は土石流を繰り返す、常にカタストロフィーが起きている場所だ。 南方熊楠について書いた中沢新一著「森のバロック」の一節に、“森は「流れ」をも体験させてくれる。森