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#15 本質的な流通革命の必要性と課題

現代の流通業界は急速に変化しています。消費者のニーズの多様化、技術の進歩、グローバル化の進展など、多くの要因が流通のあり方を変えています。しかし、これらの変化は必ずしもすべてのプレーヤーにとって公平な利益分配をもたらしているわけではありません。本質的な流通革命が求められる背景には、利益分配の不均衡とその是正の必要性があります。以下に、時代ごとの流通の変遷と現状の課題について詳述します。

江戸時代

江戸時代の流通は、基本的に生産者が商人を通じて商品を提供する形態をとっていました。この時代の仲介者である商人は、商品を販売し、流通を管理する重要な役割を果たしていました。商人が価格決定権を持ち、強い交渉力を有していたため、利益の分配は生産者:仲介者:消費者=7:2:1という比率でした。この時代は商人が大きな利益を享受する一方、消費者は限られた選択肢の中で商品を購入していました。

明治時代

明治時代には工業化が進み、企業が生産を主導するようになりました。流通業者や卸売業者が登場し、物流が効率化されました。鉄道網の整備により、全国的な物流網が形成され、産業革命や生産革命が実現しました。この時代の利益分配は、生産者:仲介者:消費者=5:3:2となり、流通業者の役割が増大しました。流通業者は商品の流通を管理し、企業が価格決定権を持ち、強い交渉力を発揮しました。

1945年~1950年代

戦後の復興期において、大企業が生産と物流を支配するようになりました。流通業者、卸売業者、仲卸業者が主要な仲介者となり、戦後の復興期に物流インフラが再建されました。国鉄の貨物輸送が主流となり、流通革命が進行しました。この時代の利益分配は、生産者:仲介者:消費者=4:4:2であり、流通業者と仲卸業者が商品を集め、各小売業者に分配する役割を果たしました。

1960年代~1970年代

高度経済成長期に入り、大規模小売業者が台頭しました。流通業者、仲卸業者、大規模小売業者が主要な仲介者となり、高速道路網の整備によりトラック輸送が発展しました。また、コンビニエンスストアが登場し、消費者の利便性が向上しました。利益分配は、生産者:仲介者:消費者=3:5:2となり、大規模小売業者が商品を仕入れ、消費者に販売する役割を担いました。

1980年代

1980年代には情報技術の発展により、消費者の情報取得が増加しました。小売業者とマーケティングサービス提供者が仲介者として登場し、コンピュータの導入で在庫管理や配送システムが自動化され、効率が向上しました。利益分配は、生産者:仲介者:マーケティングサービス提供者:消費者=3:4:1:2となりました。小売業者が商品を販売し、マーケティングサービス提供者は企業の商品やサービスを知らせる・伝える役割を果たしました。

1990年代

インターネットの普及により、直接取引が増加しました。流通業者、マーケティングサービス提供者、ECプラットフォームが仲介者として登場し、ECプラットフォームが価格決定権を持ち、動的価格設定が一般化しました。この時代の利益分配は、生産者:仲介者:マーケティングサービス提供者:消費者=2:4:2:2となり、流通業者が商品の流通を管理し、ECプラットフォームが商品を売る・届ける役割を担いました。

2000年代

2000年代にはECの急成長により、選択肢が増加しました。ECプラットフォーマーとマーケティングサービス提供者が主要な仲介者となり、デジタル革命が進行しました。ECサイトが普及し、オンラインショッピングが一般的になり、消費者の選択肢が拡大しました。利益分配は、生産者:仲介者:マーケティングサービス提供者:消費者=1:4:3:2となりました。ECプラットフォーマーが商品を売る・届ける役割を担い、マーケティングサービス提供者は知らせる・伝える役割と販売支援を行いました。

2010年代~現在

現在に至るまでの流通業界はAI技術の進展により最適化が進んでいます。AIプラットフォーム、マーケティングサービス提供者、データ仲介業者が主要な仲介者として登場し、AI革命が進行しています。AIとビッグデータの活用により、需要予測、在庫管理、配送の効率化が進み、カスタマイズされたサービスが提供されています。利益分配は、生産者:仲介者:マーケティングサービス提供者:消費者=1:4:4:1となりました。AIプラットフォームが商品を売る・届ける役割を担い、マーケティングサービス提供者は知らせる・伝える役割と販売支援を行い、データ仲介業者はデータの管理と活用を行っています。

現在の課題

現在の流通業界にはいくつかの課題があります。その一つが利益分配の不均衡です。特に、マーケティングサービス提供者やプラットフォーマーが大きな利益を得る一方で、生産者や消費者への利益配分が相対的に減少していることが問題です。

1. 公平な価値分配の必要性

現代の流通システムでは、仲介者が強い交渉力を持ち、価格決定権を握っています。このため、生産者は価格競争のプレッシャーを受け、利益率が低下する傾向にあります。一方で、消費者は多くの選択肢を持つものの、最終的な価格に影響を与える力が限られています。公平な価値分配を実現するためには、仲介者の影響力を適切に管理し、生産者と消費者の利益を保護する仕組みが必要です。

2. 技術の進展と透明性の確保

AIやビッグデータの活用により、流通業界は大きな進展を遂げていますが、その一方で取引の透明性が求められます。消費者データの管理や使用に関する倫理的な問題や、価格設定の公正性を確保するための取り組みが重要です。

3. 持続可能な流通システムの構築

環境への配慮やサステイナビリティも重要な課題です。物流の効率化や再生可能エネルギーの活用、廃棄物の削減など、環境に優しい流通システムを構築することが求められます。

D2C(Direct-to-Consumer)の役割と可能性

流通業界の分業化・複雑化・高度化は資本主義の合理化・効率化の一環として進展してきましたが、その結果として全体の生産性が低下し、各プレーヤーの利益分配が減少するという逆説的な状況が生じています。これは、付加価値の増大ではなく、限られた利益を多くのプレーヤーが分け合う構造になっているためです。このような背景から、D2C(Direct-to-Consumer)のような製造小売業の台頭は必然といえます。D2Cモデルは流通プロセスを垂直統合し、中間プレーヤーを圧縮することで全体の効率を高めることができるため、合理的な選択といえます。

これからは、プラットフォーマーがメーカー機能を持つようになったり(既にプライベートブランド商品などがその例)、D2C企業が流通機能を取り込むことで、業界再編が進む可能性があります。この動きにより、流通業界全体の効率が向上し、利益分配の不均衡が是正されることが期待されます。

流通革命または流通戦争の本質的構造

流通業界の現状において、プラットフォーマーが強力な価格決定権や顧客接点を抑えているため、メーカーが流通プロセスを垂直統合することは確かに困難です。しかし、以下の課題と戦略を通じて、プラットフォーマーに対抗することは可能です。

  1. プラットフォーマーの支配力: プラットフォーマーは、消費者との直接的な接点を持ち、消費者行動に関するデータを豊富に保有しています。この情報優位性は、価格設定やマーケティング戦略の面で圧倒的な力を発揮し、メーカーにとっては大きなハードルとなります。

  2. 業界共闘の必要性: メーカーがプラットフォーマーに対抗するためには、同業他社と連携して共闘することが不可欠です。共通のプラットフォームや協力体制を構築し、スケールメリットを生かしてプラットフォーマーの影響力に対抗することが求められます。

  3. 他業界との連携: 物流業界など、他の関連業界との連携も重要です。物流の効率化や配送ネットワークの強化を図ることで、メーカーが直接消費者に商品を届ける体制を整えることが可能になります。これにより、プラットフォーマーへの依存度を減らし、自社での垂直統合を進めることができます。

これらの取り組みは、流通革命または流通戦争の本質的構造といえます。メーカーが独自の価値を消費者に直接届けるために、プラットフォーマーとの戦いを挑むことは、単なる競争以上の意味を持ちます。それは、より公平な利益分配と効率的な流通システムの構築を目指す戦いでもあります。

まとめ

現状では、プラットフォーマーが強い支配力を持つ中で、メーカーが単独で流通プロセスを垂直統合するのは困難です。しかし、業界内での共闘や他業界との連携を通じて、プラットフォーマーに対抗することは可能です。この取り組みこそが、流通革命または流通戦争の本質的構造であり、公正な価値分配と持続可能な流通システムの実現に向けた重要なステップです。

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