『冬季限定ボンボンショコラ事件』
米澤穂信著『冬季限定ボンボンショコラ事件』を読んだ。米澤作品は2014年「このミステリーがすごい!」1位の『満願』、2022年直木賞の『黒牢城』を読んでいる。『冬季限定ボンボンショコラ事件』は今年(2025年版)の「このミス」第2位作品ということで手に取った。
『満願』や『黒牢城』とは趣向が違って、ミステリーながら青春ものといった味わいがある。高校生の男女、小鳩くんと小佐内さんのペアが事件の謎に迫る、というところから学園ものの雰囲気だ。この作品が『春季限定いちごタルト事件』に始まるシリーズであることを読み終えて知った。春、夏、秋ときてこの冬が4作目にして、完結編のようだ。
冬のある日、小鳩くんが下校時に車にはねられ、車はそのまま逃走する。一緒に歩いていた小佐内さんは無事だったが、小鳩くんは大怪我を負い入院。小佐内さん3年前にも同じ道で轢き逃げ事件に遭遇し、その件で知り合った小鳩くんと犯人探しをし、失敗に終わった経緯がある。
3年前と似通った轢き逃げ事件の被害者となった小鳩くんは大腿骨や肋骨を骨折し、病室のベッドから動くことさえできない。できることといえば3年前の轢き逃げ事件で自分たちが「捜査」をした記憶を辿りノートに記していくことだけだ。
一方の小佐内さんは今回も熱心に「捜査」を続け、毎夜、見舞いに来てはメッセージを残していく。小鳩くんがいつも夕食後すぐに寝てしまっているからだ。小鳩くんは目覚めて初めて小佐内さんが持ってきてくれたぬいぐるみや、花、ボンボンショコラに気がつき、「捜査」の進捗状況のメッセージを読むことになる。
3年前の二人が行った「事件捜査」が細かく描かれる一方、今回の事件の進展はゆっくりとしており、読者は病室の小鳩くんと同じく小佐内さんの「捜査」の詳細は分からない。情報は小鳩くんが寝ている間に届けられる短いメッセージだけだ。だが、物語の終盤で今回の事件は一気に進展するのだ。
『黒牢城』では黒田官兵衛が牢中の身動きのできない状況で、僅かな情報から推理を行う様子を描いたが、今作品では小鳩くんが同じ状況下での推理を行ない、犯人に辿り着く。読者も小鳩くんが得られる情報を病室での日々の描写の中で共有しているのだが、そこは著者の巧い語りに誤魔化されてしまうのだ。
ミステリーとして一流の作品であり、小鳩くんの過去の事件に対する葛藤や、大人未満の人間模様の「青さ」が良く描かれて、青春小説の味もあり、面白く読めることは間違いない。