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『八月の御所グラウンド』

万城目学著『八月の御所グラウンド』を読んだ。なかなか良かった、というのが感想だ。先日文庫化された『ヒトコブラクダ層戦争』や『あの子とQ』と較べても、その世界観を受け入れるのに要する労力があまりかからない。そして高校生や大学生という主人公が身近で、入っていきやすい。

この作品は「十二月の都大路上下(カケ)る」と「八月の御所グラウンド」の2篇からなる。共に京都を舞台に、前者は女子全国高校駅伝大会、後者は草野球をストーリーの軸としている。

両作品とも、京都の舞台となる地に縁のある人物と遭遇する点でも共通している。「十二月の都大路上下る」の主人公は全国駅伝大会で急遽ピンチランナーとして走ることになった一年生の坂東。雪がちらつく中を懸命に走るも、沿道を着物姿で並走する集団に気を取られる。髷を結い、「誠」の団旗を持っており、鬼気迫る様子で刀を抜く。新撰組の亡霊のようだ。「八月の御所グラウンド」の主人公は友人からの借金がもとで、早朝の草野球試合に駆り出されてしまう大学四年生の朽木。「たまゆら杯」優勝をめぐる試合は通称「御所G」で行われるが、毎試合選手を揃えるのに難儀している。ただ、急遽参加してくれる人がおり、何故か頭数は何とかなっている。そんな中、京都から学徒出陣し戦地で命を失った野球選手がプレーをしている。「お盆だから」帰ってきているようだ。

万城目学は関西を舞台に書くと調子が良い。また学生たちを主人公にすると輝く。身近な世界の中にある不思議な世界が、どこにでもいるような登場人物たちの巧みな描写やストーリーのお陰で違和感なく受け入れることが出来る。また、不思議な世界自体ではなく、あくまで登場人物たちの青春物語となっている作品は秀逸だ。

この作品は『ホルモー六景』を彷彿とさせる面白い短編集となっている。今作品は8月と12月だったけれど、他の月の作品も書いて、12ヶ月分にまとめることができたら楽しそうだ。

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