『バリ山行』
松永K三蔵著『バリ山行』を読んだ。芥川賞受賞作だ。昔は文藝春秋誌を買って芥川賞作品を読むことにしていたが、最近は手を出していなかった。というのも芥川賞作品は、純文学の新人賞だと理解しているが、読んでいてそんなに楽しい作品があまりないからだ。
この作品を書店で手に取るまでは、そのタイトルから「インドネシアのバリ島にある火山に登る、ちょっとおどろおどろしいストーリー」だと勝手に勘違いしていた。
帯の解説を見ると、何と地元神戸の六甲山が山行の舞台だと分かって、即座に買い求めた。地元の地名が出てくる出てくる。毎日自宅のベランダ越しに見える須磨アルプスの「栂尾山」、自宅から歩いて登る「高取山」、菊水山からエスケープする「鈴蘭台」、鵯越から帰る「神戸電鉄」、「六甲山頂」から下って入る「有馬温泉」...。2年前から六甲山系に登り出した自分にとって、すっかりお馴染みとなった場所ばかりだ。
そんなこともあって、この作品の山行の様子は頭の中でとても鮮明な絵として浮かび上がる。西宮在住で登山を趣味とし、実際に六甲山に登っている作者ならではの描写だ。更には私のような登山初心者には馴染みのない「バリエーション山行」、即ち地図にはないルートを上級者が楽しむ「バリ山行」の描写は同じ登山とは思えない別世界を見せられているようだ。
ストーリーは主人公、波多の勤務する外装工事会社での出来事と六甲山での同僚たちとの山行との2つが並行して進む。「純文学山岳小説」と呼ばれているようだが、ストーリー運びが実に上手く、引き込まれていく。エンタメとは言わないと思うが、次の話の展開が知りたくなる面白さがあり、一気に読み終えた。芥川賞作品では久々に面白い作品である。