ヘアゴムとトラウマ。
出会いは唐突だった。
あれは確かまだまだ残暑厳しい9月前半。
その日は金曜日、明日はお休み。
ということでだらだらとyoutubeだかSNSだか気ままな夜更かしを謳歌していたときのこと。
明日は、なにをしようかなあ、
ちょっとお腹すいてきた頃だけど、今なにか食べるのはだめだなあ、とかどうでも良いことを頭によぎらせていると、カサッ。という微かな音が聞こえた。
ん?カサッ?何の音だろう。頭上にはてな、が浮かんだ2秒後。
突然のエンカウント!!そう、黒光りするあいつに!!!
わたしが座っているところからたった20㎝の距離に。まさに目と鼻の先の距離。
実際は、膝の先、だけど。
ねえ、パーソナルスペースって知ってる、、?
「んぎゃあえええー!!!!」
この世とも思えない断末魔は、自分が発したものだと認識するまで少しかかった。
人は、恐怖と驚きがないまぜになると、
「キャー」でもなく「ギャー」でもなく
んぎゃあえええ、と叫ぶらしい。
1階じゃないから、大丈夫。
そんな謎の安心感は儚く散りさった。
誰だやねん、そんな希望を持たせたのは。
出会いたくはないが、どうしても出会わなければならないならば、こう、直前に、不穏な音楽が鳴るとか遠くから影が動く、とか、前振りが欲しかった。
出会うなんて、夢にも思っていなかったから、
衝撃が、もうものすごかった。
近くにあったミニ箒を、気が狂ったように振り回したが、嘲笑うように攻撃を避け、すすす〜とベッド下に潜り込んだときの、絶望感たるや。万事休す。
安心しきっていた空間は、もはや心安らげる空間ではなくなった。
「また、出会ったら?」
「今もいるのだろうか、」
数日は、家に帰るのが、文字通り憂鬱になる。
数日経ったら、奴一匹で、自分の気持ちが激しく左右されることに、なんだか、だんだん腹が立ったきた。
何勝手に住みついてるねん、家賃を払ってもらわな、わりに合わへんねけど。家賃、食事つき無料です。わたしもそんなとこ、住みたいし!
あれ以来、紙が擦れるような僅かな音にも、反応したり、丸まった黒いヘアゴムにも、びくッと身構えたりしてしまう。
「うわ!!あ、ヘアゴムか。良かったー。」
をあれから何度繰り返しただろう。
よっぽど、怖かったらしい。
あー、これが俗にいうトラウマというやつか。
んな、大袈裟な、と思う方もいるかもしれないが、少なくともわたしにってはそうだ。
あれから半年。
ゴ○ジェットという名の臨戦態勢グッズを、
部屋の片隅に置いてはいるが、まだ出番はない。
にも関わらず、一体わたしはいつまで丸まったヘアゴムにも怯え続けるんだろうか。