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【詩】かなし春【なん歌】

■まえがき

 しばらく寒い日の続いた三月下旬、実家の戸口へ不自然なかたちで燕のなきがらがあったそうです。鳥を愛する父が丁寧に埋葬してくれました。もしかしたらあたたかな土で休めるよう、だれかが運んでくれたのかもしれない。そういう半ば独りよがりな願いを込め、この詩を綴りました。風雨に負けず大空を勇ましく渡ってきた、尊い一羽を讃えます。

■かなし春

南風連れ友来たる
さびしい季節待ちわびて
まだかまだかと空仰ぐ
赤い花びら踏み締めて
軒下覗き友探す

暖かな春どこへやら
冬毛に戻り雨凌ぐ
壊れた屋根の隙間から
どんみり曇った空を見た

やがて御日様顔を出し
足取り軽い散歩道
濡れた芝生の直中に
青くかがやく翼あり
水を蹴散らし駆け寄れば
息絶え果てた友がいた
薄く開いた嘴に
紋白蝶の羽みとめ
生きようとした友の意地
尻尾に誓うよ忘れない

にゃんこ鳥さんくわえてる
かわいそうねと母子言う
此奴喰うほど飢えちゃあいない
命を懸けて海渡り
友が目指した家へ行く
まだかまだかと待ちわびる
老いた男の家へ行き
赤い花びら踏み締めて
戸口へ友を横たえた

山裾にある古い家
白木蓮の樹の下に
春が来るたび猫参る
燕の墓があるという

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