予防摂取
日毎足を運ぶのは、砂の色をした海だ。
人生の夏休みも終わる頃、ケアンズの街に来た。誰も自分を知らない所へ行きたいと言いながら、来るのは3度目のこの街を選んだ辺り、妙に寂しがりな面が出たようだ。
起きたらマーケットで積まれていた安売りのプラムを口に突っ込み、適当に着替えてモーテルを出る。
信号の怪しい横断歩道をいくつか渡ると直ぐに海だ。
チョコレート菓子の甘ったるさを水で流し込みながら気の済むまで波を眺める。
真っ青な綺麗な海ではない。水はきっと綺麗で透明なのだろうが、砂の色が透け、砂の波が寄せては返すように見える。
私にとって此処はファンタジィじみた、砂の海だった。
見えているのに距離の掴めない地平線から、此方に向かって迫り来る砂の海の波を、目に耳に脳裏に焼き付ける為に毎日足を運ぶのだ。
帰れば直ぐに、日常の喧騒に囲まれ、社会へ出る。
いつかどうにも孤独が愛しくなったその時は、私はまた、砂の海に会いにくる。