平成28年司法試験・民法・設問1・関連知識2
平成28年司法試験・民法・設問1・関連知識2
【94条2項類推適用の総まくり】
(1)第三者の保護要件を「善意」で足りるケース
A=最判昭和41年3月18日、青森県花巻市の事案
教訓=他人の承諾があっても、虚偽の他人名義の保存登記は危ない。特に友人の妻名義。離婚しちゃった!
1、一審原告・S・Oは、既に一軒家を持っていたので、住宅金融公庫から融資を受けられなかった。しかし、もう一軒建てたかったので、友人K・Hの妻・K・H名義で住宅金融公庫から融資を本件建物を建てた。
2、K・H名義での融資だったことから、K・Hの承諾を得て本件建物をK・H名義で保存登記
3、ところが、H夫婦が離婚。財産分与がこじれ、K・H名義の本件建物を実姉の旦那に売り、それを被告・M・Yに売却
4、一審原告・S・Oは、K・Hに対し保存登記の抹消、実姉の旦那に対し移転登記抹消、一審被告・M・Yに対し移転登記抹消→要は実姉の旦那以下の登記抹消を求めた。
5、一審は原告勝訴、二審は一審被告・M・Y勝訴。
6、ポイント=通謀はあったものの、その意思表示はなかったので、94条2項の直接適用はできず、類推適用となる。ただ、本人の帰責性が強いので、被告は善意で足りる。本人は、虚偽表示の登記者が所有権を取得しなかったことをもって、自己の所有権を被告に対抗できない。
B=最判昭和45年9月22日=新潟市の夫婦関係のもつれ事案
さてさて、昭和26年に遡る。新潟市で飲食店を経営していた一審・原告の女性S・Yは、建築業のH・Yと内縁関係となった。飲食店に資金援助したH・YはS・Yの不動産を自己名義にした。S・Yはゆくゆく結婚するのだから、と思い、その登記を放置。長男が生まれたことから、正式に結婚。ところが、昭和31年になって、嫉妬心が強いH・YはS・Yと離婚し、その財産分与として不動産の登記書を持ち出し、一審・被告N・Sに売却した。
そこで、原告は所有権移転登記の抹消の本訴、被告からは所有権確認と明渡の反訴。
一審、二審とも原告勝訴。最高裁は登記は原告の承認の下に継続→94条2項を類推適用→善意で買い受けた被告の勝訴にした。
(2)第三者保護に「善意」と「無過失」が必要
A、本人の関与があったが、その関与よりも大きな外観が作出されたケース
【判例】=青森県大鰐(おおわに)町の売買予約事件
1、一審原告・K・Mが、自己所有の本件不動産について、会社代取のY・Mに売買予約の登記(所有権移転の仮登記)
2、Y・Mは勝手に本件不動産について所有権登記をした。
3、Y・Mは、別の会社へ売却
4、別の会社は、Fへ売却。Fは本件不動産の一部をTに売却。
5、K・M→F、Tに本件不動産の所有権確認訴訟
6、最高裁は、94条2項と110条の法意に照らして、第三者には「善意」かつ「無過失」を求めた。理由は本人は所有権移転の仮登記に関与したが、本登記には関与していなかった。第三者は本登記の外観を信頼して購入した。
7、110条については、「無過失」の要件を求めるだけに必要とされた。
8、破棄差戻で、F、Tは「善意」かつ「無過失」とされ、一審原告敗訴。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
不動産について売買の予約がされていないのにかかわらず、相通じて、その予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合において、外観上の仮登記権利者がほしいままに右仮登記に基づき、所有権移転の本登記手続をしたときは、外観上の仮登記義務者は、右本登記の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗することができないと解すべきである。
【裁判結果】 破棄差戻
B、本人が外観の存在を意識していないが、著しい不注意があった場合
【判例】=最判平成18年2月23日、大分市の不注意事件
1原告・甲は、被告・乙の紹介で平成8年1月25日、丁原梅子から、本件不動産を代金合計七三〇〇万円で購入した。
2、本件不動産について、平成12年2月1日、原告から被告乙に対する同年一月三一日売買を原因とする所有権移転登記手続がなされた(以下「本件所有権移転登記」という。)。
3、被告乙は、被告丙との間で、平成一二年四月五日、本件不動産を代金三五〇〇万円で売るとの契約をした。
4、2の段階で、原告・甲は不正な書換を目前で漫然と見ていた。このような余りにも不注意な行為の帰責性の程度は、積極的に関与又は知りながら放置した場合と同視し得るほど重い→94条2項と110条を類推適用して、善意無過失の第三者は保護される。
(平成28年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦)