令和3年司法試験・刑事系第1問(刑法)・設問1に挑戦

令和3年司法試験・刑事系第1問(刑法)・設問1に挑戦
第1 設問1
【基礎知識など】
1、犯罪の客観的事実を掴む。試験委員はどうも、最初に、強盗という犯罪を置いて受験生を惑わしているような気がしてはならない。そこで、事実を時系列に正確に把握することが大切。平常心ですよね。
2、時系列
(1)甲と乙は、B店に対する強盗(刑法236条)を共謀(これが、受験生を惑わす)
(2)甲は上記強盗について、B店の副店長・丙に協力を依頼する。
(3)この時点で、丙は、自己が強盗の被害者として振る舞うという狂言強盗を甲に逆提言をし、甲は了承する。この段階で、本問の犯罪は強盗では、なくなる。なぜなら、強盗成立の要件である、反抗を抑圧する脅迫又は暴行」が消えるからだ。もう、甲の強盗罪の成否という問題から、おさらばとなる。
3、上記時系列の事実から、丙がB店の腕時計100点をショーケースから持ち出して、強盗役を演ずる甲に手渡した行為が窃盗(235条)か業務上横領罪(253条)のいずれが成立するかが問題になる。
4、上記犯罪のうち、甲、丙との共同正犯が成立するが、問題は乙だ。乙は甲との共謀で強盗を行うつもりなので、共犯における錯誤がまず、問題になる。また、乙は幇助犯にとどまるのか、それとも共同正犯が成立するか、も問題になる。
5、共犯の錯誤は法定的符合説で行く。また、共同正犯の成否について、①共謀②共謀に基づく実行行為の二元論ではなく、①共犯②正犯性③共謀に基づく実行行為という三元説を採る。以下に、解答文を記す。
第1 設問1
1、丙の罪責
(1)B店の副店長である丙は、甲から同店に対する強盗について協力を求められた。この際、丙は自己が強盗の被害者役を演ずる狂言強盗を甲に逆提案し、甲の了承を得ている。したがって、丙がB店の腕時計100点をショーケースから取り出し、甲に手渡した行為について業務上横領罪(253条)又は窃盗罪(235条)のいずれかが成立するのが問題になる。
(2)業務上横領罪の要件は、①業務上②自己が占有する③他人の物を④横領することである。業務横領罪における「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続する事務で、委託に基づき金銭又は財物を保管することを言う。
また、「横領」とは不法領得の意思を発現することをいい、具体的には、自己が管理する他人の財物を不法に自己の物とすることをいう。
(3)B店のショーケースの鍵は、店長Cととともに丙も所持していたことから商品たる腕時計について一定の管理権を持っていた。しかし、丙は、商品の店外への持ち出しの権限を有していていないことから、B店の商品の占有権は上司たる店長Cにあると言える。したがって、丙には②自己が占有するという要件を欠くことから、業務上横領罪は成立しない。
(4)では、丙に窃盗罪が成立するか。同罪の要件はⅰ「他人の物」をⅱ「窃取」することである。「他人の物」とは他人が占有する財物をいう。「窃取」とは占有者の意思に反して財物の占有を奪うことをいう。
(5)丙は、B店の腕時計を占有している店長Cの意思に反して、腕時計の占有を奪って、甲に手渡している。また、丙には、腕時計を盗むことに故意があることから、窃盗罪が成立する。さらに、後述するように甲と共同正犯(60条)が成立する。
2 甲の罪責について
(1)甲が強盗役を装って丙からB店の腕時計100点を受け取った行為は、丙との窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立しないか。
(2)共同正犯の要件は、a共謀、b正犯性、c共謀に基づく実行行為である。b正犯性を求めているのは、従犯との区別を明確にするためである。
(3)甲は丙と狂言強盗を行って腕時計を盗むことを相談しており、a共謀の要件を充たす。そもそもB店から腕時計を奪うことを発案したのは甲であり、盗んだ腕時計100点のうち40点を自己の物としていることからb正犯性の要件を充たす。また、丙から腕時計を受け取っていることから、c共謀に基づく実行行為の要件も充たす。さらに、故意もある。したがって、甲には丙との窃盗罪の共同正犯が成立する。
3 乙の罪責について
(1)乙は甲と強盗を共謀した。しかし、現実には甲は丙とともに窃盗を行っている。これは乙は重い罪たる強盗という故意で、軽い罪の窃盗罪を実現していることになり、共犯の錯誤に陥っているといえる。そこで、乙はいかなる罪責を負うか、が問題になる。
(2)共犯の錯誤は、単独犯の錯誤と同様に法定的符合説の立場で考えるべきである。すなわち、行為者が認識している構成要件と、実際に実現した構成要件との間でα保護法益β行為態様の共通性から構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い罪の故意が認められ、その軽い罪が成立すると考える。
(3)乙の認識していた強盗罪と甲らが実現した窃盗罪の保護法益はいずれも財産権であり、共通している。また行為態様では財物の占有者の意思に反して財物の占有を自己に移している点で重なり合いが認められる。したがって、乙には窃盗罪の故意犯が成立する。
(4)次に、乙は見張り役をしたにすぎないことから、幇助犯にとどなまるのか、それとも共同正犯を問えるのか、問題になる。この点について、共同正犯の要件についてはa共謀、b正犯性、c共謀に基づく実行行為であることを先述した。b正犯性を欠けば、幇助犯にとどまるが、充たせば、共同正犯が成立する。
 甲らの窃盗は、白昼、市街地で行われており、その犯行は発覚しやすく、逮捕もされる可能性が高いことから、乙の見張り行為は重要な意味を持つほか、甲らが盗んだ腕時計100点のうち20点(400万円相当)という分け前を得ている。これらの事実から乙に正犯性が認められ、乙には甲、丙とともに窃盗の共同正犯が成立する。
4、丁の罪責について
【盗品等に関する罪の基本知識】
1、256条=ジゴロ→女性に養われて生活する男
2、語呂合わせ→ジゴロ=女泥棒に養われて生活生活する人と連想する。
3、条文
1項=盗品等を無償で譲り受けた行為
2項=盗品等の運搬、保管、有償で譲受け又は有償の処分あっせん行為
4、処罰根拠=(1)被害者の回復追求権の侵害(2)財産犯(本犯)の助長
5、保管罪(256条2項)の基礎知識
(1)本犯のほか、本犯以外の者からの寄託も含む
(2)判例→保管開始時に盗品で知らなくても、後で知って保管を継続した場合、知情後の保管継続に同罪が成立する。(最決昭和50年6月12日、Kが三つ揃いの背広三着をTに預けた。Tは当初、盗品とは知らなかったが、翌日に盗品としり、同罪が成立。理由は継続犯であることから)
6、他方、学説は、保管開始後に事情を知らなければ、同罪は成立しないとして、判例と対立。理由は窃盗罪と同様の状態犯であることから、保管開始時に盗品と知らなければ、同罪は成立するとする。
7、私見=保護法益の観点から、判例の考えが妥当と考える。
8、以下、解答文を記す
【解答文】
1、盗品等保管罪(256条2項)は、盗品等の保管開始時に盗品であることを知っていた場合のほか、知情後に保管を継続すれば、その時点から同罪は成立する。
2、確かに丁は甲から腕時計40点の保管を依頼された時点では盗品であることを知らなかったが、その後、腕時計に値札が付いていたことから盗品であることを知りながら、保管を継続したことから、同罪が成立する。
以上

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