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令和3年司法試験・民法・解答に挑戦・設問1

令和3年司法試験・民法・解答に挑戦・設問1
1、設問1
【時系列】
1、R2年4月10日、Aが所有する工作機械甲が盗まれて、行方不明に。
2、R2年4月25日、土木業者Bは、空き地で甲を発見、廃棄物と考えて持ち帰る。
3、R2年5月1日、B・C間で期間6カ月とする甲の無償貸与(使用貸借)契約。Cは上記1、2の事実を知らなかった。
4、R2年5月15日、BはDに対し、借入金債務返済の代わりに、甲をCに貸与したまま、譲渡。Bは甲について「販売業者から買った物だ」と虚偽の説明。甲には所有者を示すプレートなどはなく、不審点はなかった。BはCに対し、甲をDに譲渡したことを告げ、以後、Dのために占有し、同年11月1日に甲をDに返却するよう、指示し、Dは承諾。
5、Aは、Cが甲を使用していることを知り、返還を請求(請求1)。また、Aは同年5月1日からAに返還されるまでの使用料相当額の支払いを請求(請求2)。
 Cは、ア{甲の所有権を取得したDから甲を借りている}と主張してAの請求に応じなかった。
 これに対してAは、イ{BからDへの譲渡後もCが甲を現実に支配する状態に変わりがない以上、Dは所有権を取得したといえない}、ウ{事実1に照らすと、CはAの請求に応じるべきである}と反論。
【設問1の内容】
1、下線部ア、イ、ウの根拠を明らかにし、主張の当否を検討せよ
2、請求1の検討せよ
3、請求2の検討をせよ
【解答に挑戦】
第1 設問1
1、下線部アの根拠とその当否
(1)Dが甲を即時取得(民法192条、民法は以下、略す)したことを根拠にしている。そこで即時取得は成立するか、検討する。
(2)即時取得の民法上の要件は、192条の条文から、①前主の無権利
②目的物が動産③有効な取引の存在④占有の取得が平穏、公然、善意、無過失でされたこと⑤取引行為により占有を開始したことである。なお、186条1項が、占有者の「善意」「平穏かつ公然」が推定されるを規定していることから、これらは要件にはならない。また、188条から「無過失」も推定される。
したがって、即時取得の要件は、A取引行為B取引行為による引渡しで十分となる。
(3)BはDに対し、借入金債務返済の代わりに、甲を譲渡したことは要件Aを充たす。また、Bは、Cが占有している甲を、指図による占有移転(184条)によりDに引渡しをしていることから、要件Bも充たす。したがって、Dは甲を即時取得したとも思える。
2、下線部イの根拠とその当否
(1)Aの下線部イの主張の根拠は、指図による占有移転では甲の占有移転が外部から認識できないことから、即時取得は成立しないことを根拠にしている。
(2)指図による占有移転が「占有を始めた」(192条)と言えるためには、即時取得で権利を得る者と権利を失う者の利益の比較衡量した場合、両者のうち、目的物の占有が確固としている方が占有権を有すると考える。具体的には目的物の移転が外部から認識できるケースは即時取得が成立し、他方、目的物の占有の移転が外部から認識できないケースは即時取得は否定されると考える。
(3)確かにBはDに対し、甲を譲渡しているが、甲は実際にはCが占有しており、一般人から外部から見て甲がDに移転しているとは分からない。また、それを外部から確認できる表示や記録もない。したがって、本問は、目的物の占有の移転が外部から認識できないケースにあたり、即時取得は成立しない。
(4)したがって、下線部アの主張は成立せず、下線部イの主張は成立する。
3、下線部ウの根拠とその当否
 甲は、Aから盗まれた盗品である。盗まれた期日は令和R2年4月10日であり、その2年以内にCが甲を使用しているのをAが知ったことから、Aは193条によって、甲の回復請求権を行使しており、これが下線部ウの根拠である。甲は、Dに即時所得されていないことから、下線部ウの主張が妥当である
4、請求1について
 請求1の内容は、AがCに対し、甲を返還請求するものである。甲は盗品であり、かつ、盗難から以内であることから、Aの請求1は認められる。
5、請求2について
(1)請求2の内容は、AがCに対し、令和2年5月1日から甲がAに返還されるまでの甲の使用料を不当利得(703条)として返還を求める内容である。
しかし、Cは甲が盗品であることについて善意で、Bから甲を使用貸借しており、Cは甲を善意で占有している。したがって、甲を使用収益を取得できる。このため、元所有者Aの不当利得返還請求権と、善意の占有者の果実取得権のいずれかが優先するかが問題となる。
(2)189条は、善意の占有者は、占有物からの果実を取得する、と規定する。この果実には、占有物の使用収益権が含まれる。また、189条は善意占有者に果実の取得を認める特則である。このため、不当利得の規定は排除されると考える。
(3)Cは、Bとの間で甲の使用貸借(593条)契約をした当時、事実1、2について知っていなかった。したがって、Cは甲を善意で占有していたと言える。したがって、189条にCは甲の果実を取得できることから、Aの不当利得返還請求を退けることができる。したがって、請求2は認められない。
以上

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