会社法条文・判例攻略法10
今回は、非公開会社のケース。非公開会社で、特別決議(199条2項、309条2項5号)がなされないで新株発行が行われたことが無効にされた事例です。
非公開会社のポイントは、「既存株主の持ち株比率の維持>取引の安全」。
では、判例を学習しよう。条文語呂合わせもあります。
【非公開会社】
≪無効事由に当たった事例≫=非公開会社、特別決議なし(最判平成24年4月24日)
住宅やビルの建設費を保証する民間会社・Z社が平成18年6月、ストックオプションとして交付された新株予約権を、行使条件に違反して新株発行された事案で、最高裁は、非公開会社において既存株主の持ち株比率がその意思に反して影響を受ける点で株主総会決議(特別決議)がないまま新株発行がされたのと異ならないから、本件新株予約権の行使による株式発行には新株発行無効の訴えの無効原因があると判示した。
平成18年は、ライブドア事件で社長らが逮捕された年ですね。
参考=〔最高裁判所民事判例集〕
1. 取締役会が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合において,新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がないときは,当該新株予約権の発行後に上記行使条件を変更する取締役会決議は,上記行使条件の細目的な変更をするにとどまるものであるときを除き,無効である。
2. 非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,当該特別決議を欠く瑕疵は上記株式発行の無効原因になる。
3. 非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権に株主総会によって行使条件が付された場合に,この行使条件が当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているときは,上記行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行には,無効原因がある。
【ポイント】
非公開会社における新株発行においては、株式転々流通する公開会社に比べ、既存株主の会社の支配権に関わる持ち株比率の維持の利益が重視される点だ。大胆に定式化すると、以下のようになる。
既存株主の持ち株比率の維持>取引の安全
【理由】
1、非公開会社において、新株発行の募集事項の決定は取締役会の権限とされておらず、原則として株主総会の特別決議が求められること(199条2項、309条2項5号)。
2、新株発行無効の訴えの提訴期間が、公開会社が6カ月しかないのに対し、非公開会社の場合は1年間とされている(828条2項)。このことは、新株発行の効力を争える期間が公開会社より長く、重大な瑕疵がある新株発行は無効と認められやすい。
3、このような規定は、非公開会社の場合は既存株主の持ち株比率の維持の保護を重視し、株主の意思に反する株式発行は株式発行無効の訴えによって救済するのが会社法の趣旨と考えられる。
4、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続の瑕疵(法令違反など)の程度は重大であるものとして、株式発行無効の訴えの無効事由になるとされる。
【条文語呂合わせ】
199条(募集株式の募集事項の決定)=重要条文
語呂1→生き生き(199)と募集事項を決定
語呂2→基準を低く(199)して募集事項を決定
309条(株主総会の決議)=重要条文
語呂1→さわぐ(309)な、株主総会の決議
語呂2→みわく(309)な株主総会決議
309条1項=普通決議→議決権の過半数で決める。
309条2項=特別決議→議決権の3分の2以上の多数で決める。
以上