会社法条文・判例攻略法22
会社法条文・判例攻略法22
【利益供与】
120条=条文は後掲
1、趣旨=今となっては、絶滅危惧種となった総会屋の暗躍を封じ込めるために法制化されたが、現在、さまざまな局面で株主の権利行使に関して財産上の利益供与が行われている。趣旨は、①企業経営の健全性の確保②会社財産の散逸防止の2点。
語呂1→利益供与禁止は必要(120)
語呂2→利益供与は、いずれ(120)なくなる。
2、事例
(1)蛇の目ミシン株主代表訴訟(最判平成18年4月10日)
α、この事件の背景は、光進(こうしん)事件があった。バブル景気下の日本で起こった、仕手筋集団「光進」を巡る事件の総称だ。
1987年(昭和62年)に「光進」代表が融資金で蛇の目ミシン工業(以下、蛇の目)の株3100万株(約20%)を買い占めて筆頭株主となり、同社取締役に就任。その後、1989年(平成元年)4月から経営陣に株の高値買い取りを要求し、要求に応じなければ暴力団に売り渡すとして、融資金と同額の960億円余りを要求する形で恐喝した。蛇の目ミシンは迂回融資をする形で「光進」グループに資金提供した。
β、株主代表訴訟で元社長らに賠償責任
上記の恐喝事件などに絡み、蛇の目ミシン工業に巨額の負債を抱えさせたとして、同社の男性株主が当時の役員5人に939億円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は、『警察へ通報するなどの対応を怠り、元代表側に巨額の資金提供をした元役員らには過失がある』と賠償責任を認めた。
そのうえで『暴力的な脅迫を受けたので、やむを得なかった』として元役員らの責任を否定し請求を棄却した2審判決を破棄。元役員らが賠償すべき損害額を算定するために、審理を東京高裁に差し戻した。
判決理由で同小法廷は『株主の地位を乱用した不当な要求に対し、経営者は法令に従った適切な対応をする義務がある』と指摘。暴力団など好ましくない相手への株売却を恐れたとはいえ、元役員らは職務を忠実に遂行する義務などに違反したと認定した。
さらに、元代表側に株買い戻しのための巨額資金を提供したことは『会社にとって好ましくない株主の議決権行使を回避する目的で株式譲受の対価を提供したといえ、商法の禁じる利益供与に当たる』との初判断を示した。
(2)モリテックス株主総会決議取消事件―Quoカード事件
《書 誌》
【文献番号】 28132419
【文献種別】 判決/東京地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成19年12月 6日
【事件番号】 平成19年(ワ)第16363号
【事件名】 株主総会決議取消請求事件
【著名事件名】 モリテックス株主総会決議取消請求訴訟
【事案の概要】東京地裁判決
①半導体製品用光学レンズなどのモリテックスの株主である原告が、株主総会における議案について、手続きが違法であるとして、会社法831条1項1号に基づき、決議の取消を求めた事案において、取締役8名及び監査役3名を選任する株主提案と会社提案がそれぞれ出された場合においては、「取締役8名」「監査役3名」の選任につきそれぞれ一つの議題につき、双方から提案された候補者の数だけ議案が存在するものであり、本件事情の下では、白紙委任とはいえ、原告が被告株主から得た本件委任状は、出席議決権に参入し、かつ、会社提案に反対の議決権行使があったものとして扱うべきであったとして、手続きの違法を認めた。
②議決権行使株主に対し、会社が会社提案への賛同を呼びかける文書とともにプリペイドカード500円分を配布したことは、会社法120条の利益供与にあたるとして、原告の請求を認容し、決議を取り消した。
【裁判結果】 認容
【上訴等】 控訴(後和解)
【条文】
(株主等の権利の行使に関する利益の供与)
第百二十条 株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主(第八百四十七条の二第九項に規定する適格旧株主をいう。)の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等(第八百四十七条の三第一項に規定する最終完全親会社等をいう。)の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。
3 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
以上
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