見出し画像

令和3年司法試験・商法設問1・基本知識

令和3年司法試験・商法設問1・基本知識
【会社と人物】
1、甲会社=和食器の製造・販売。取締役設置会社、監査役設置会社、資本金1億円、負債額2億円、年間の経常利益2000万円、非公開会社。取締役はAら3人
2、A=甲会社の代表取締役
3、乙社=食器の販売する株式会社、株主はBのみ。
4、B=乙社の株主であり、代表取締役
【時系列】
1、甲社は、信頼できる代理店のみで販売を維持。
2、BはAに対し、甲社の食器を販売させてほしいと申し入れたが、断られていた。
3、Aは平成28年5月ごろ、Bに対し「私個人でレストランを開業するので、下見に同行して」。また、「レストランで甲社の食器を利用する。気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか」と提案。また、「この計画実現には5000万円資金が足りない」と漏らす。Bはこれをきっかけに甲社との取引を深めたいと思い、Aに5000万円を融資することに。甲社の連帯保証を付けてくれ、と依頼。Bは連帯保証につき甲社の取締役会の議事録を付けてくれ
4、この事業は甲社の事業として提案したが、賛成が得られなかった。この経緯から、連帯保証について承諾を得ないで、連帯保証の承認がある旨の本件確認書を作成、Bに交付することに。
5、Aは本件確認書をBに交付。Bは融資の手続を開始。
6、Aと乙社は平成28年6月1日、5000万円の金銭消費貸借契約を締結。
最後の利息と元本返済期日は令和1年(平成31年)9月30日。Aは取締役会の承認を受けないまま、甲社を代表して本件連帯保証契約を結ぶ。
7、Aは一年目の利息を払ったが、その後、利息も元本も返済しなかった。そこで乙社は令和元年10月、甲社に対し、本件連帯保証契約基づき保証債務を履行を請求。この時点で、甲社の他の取締役が知ることに。
【設問1】
保証債務の履行の請求を拒むために甲社の主張とその当否について論じろ。
【基礎知識】
1、経常利益
経常利益とは、企業が通常行っているすべての事業を通して得た利益のことで、事業を多角化している企業の場合は本業以外の事業で得た利益も含みますし、有価証券の売却や金利などで得た利益も含みます。 ただし、経常利益には継続的な事業には関係ない例外的な損益 (企業が所有している土地を売却して利益を得るなど)は含まれていません。
1、多額の借財=362条4項2号
多額の借財を決定するのは、取締役設置会社においては、取締役会の権限

(取締役会の権限等)
362条
1 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 426条第1項の規定による定款の定めに基づく423条1項の責任の免除
語呂1→
猿知恵(362)使え、取締役会
死に(42)たいのか、多額の借財で
語呂2→
サロンに集まる取締役会のメンバー
(木俣由美、『楽しく使う会社法』)
2、多額の借財の該当性―判例
最判平成6年1月20日
事案=N社の前社長が、N社株式(7800万円相当)をK社に譲渡。新社長が、この株式譲渡は「重要な財産の処分」にあたるのに、取締役会の承認を経ないで、譲渡されたもので、譲渡は無効であり、当該株式はN社の物であるとの確認訴訟を提起した。この株式譲渡が「重要な財産の処分」にあたるかが争われた。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
●規範= 1. 重要な財産の処分に当たるか否かは、①当該財産の価額、②その会社の総資産に占める割合、③保有目的、④処分行為の態様及び⑤会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきである。→規範
2. 株式が、帳簿価額では7800万円で会社の総資産の約1.6パーセントに相当し、適正時価を把握し難く、その譲渡が、代価いかんによっては会社の資産及び損益に著しい影響を与え得るものであり、営業のため通常行われる取引に属さないなど判示の事実関係の下においては、右株式の譲渡は、商法260条2項1号にいう重要な財産の処分に当たらないとはいえない。
【利益相反の間接取引】
条文
(競業及び利益相反取引の制限)
356条
1項=取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2項=民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
365条
1項=取締役会設置会社における356条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2項=取締役会設置会社においては、356条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
語呂→競業取引や利益相反取引は、承認のタイミングが見頃(356)
判例
最判昭和43年12月25日
【原告】旧日本ビクター株式会社(現JVCケンウッド)
【被告】S社
事案
 C電力会社の社員はH氏は個人で電気製品小売業(代表者はH氏の妻)を営む。その後、同会社を退社後、電気製品小売業会社S社を設立。H氏は、個人として旧日本ビクターから買掛代金代金債務を負っていた。この債務をS社が債務引受した。そこで日本ビクターがS社に、この債務の支払債務を請求をした。1審は旧日本ビクターが勝訴。しかし、2審は、本件債務引受は、利益相反取引があたるが、S社の取締役会の承認を受けていないことから、無効と判断。そこで、旧日本ビクターが上告。
争点
 株式会社の取締役の承認を受けていない利益相反取引は無効か否か。
規範
〔最高裁判所民事判例集〕
  会社取締役会の承認を受けていない利益相反取引が間接取引の場合、会社が第三者に対して無効を主張するためには取引の安全を図る見地から、①当該取引が利益相反行為に該当すること、及び②右第三者が取締役会の承認を受けていなかつたことについて悪意であるときにかぎり、その無効を主張することができる。
適用
 旧日本ビクターは上記①と②を主張、立証して勝訴。
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?