勢いに乗る技術

はじめに


NSSOL Advent Calendar 2024の5日目の記事です。初日の『発信で持論を育てる』に続いて、2回目の登板です。どうぞ、私の持論にお付き合いください。

人生には、「勢い」の波が突然訪れることがあります。それは、仕事上の新たなプロジェクト、個人的な成長の機会、人間関係の新たな展開、さらには社会全体のムーブメントなど、さまざまな形で現れます。

しかし、せっかくの機会を見逃してしまう人は多いでしょう。特に現代では、勧誘や後押しがおせっかいで、ときにはハラスメントとみなされることもあり、他者に働きかけづらくなっています。その結果、自ら行動しなければ何も変わらない環境が一般的になっています。それに加えて、コスパやタイパを重視しすぎるあまり、新しい挑戦を控える傾向があることも関係しているでしょう。

今回は、勢いに乗るための考え方と技術、そして前提となる自己理解の変革について深掘りしていきます。

チャンスの波は突然やってくる


私たちの周りには、常に大小さまざまなチャンスが潜んでいます。たとえば、会社で新しいプロジェクトが立ち上ちあがる、同僚が面白そうなイベントに誘ってくれる、さらにはSNSで突然バズる話題など。こうした勢いは往々にして予告なしに訪れます。そしてこの機会、私たちを待ってくれないのです。

勢いに乗る人たちは、この突然の波を捉え、素早く行動に移します。一方で乗れない人たちは「タイミングが早すぎる」「もっと準備が整ってから」と迷ってしまって、その間にチャンスが他の誰かの手に渡ってしまいます。

現代社会において成功を手にする人とそうでない人の違いは、この「勢いに乗る技術」にあると言っても過言ではありません。


コスパ・タイパ主義が挑戦を抑制する時代


現代社会では、何事も効率重視の視点から評価されることが増えています。コスパは、費用対効果を最大化しようとする考え方であり、タイパは、時間対効果を最大化しようとする考え方です。これらの概念は合理的な判断を助ける一方で、過剰に重視されると新しい挑戦が敬遠される要因にもなります。

たとえば、未知の分野への挑戦や未経験のプロジェクトに参加することは、短期的にはリスクが高く、成功する保証もありません。そのため、「これってコスパが悪いのでは?」「時間の無駄にならない?」と考えてしまい、結果として新しい挑戦を避け、安定した現状維持を選びがちです。しかし、この姿勢が続くと、せっかくのチャンスを逃し、結果的に成長や成功の機会を失うことになりかねません。


やらない言い訳よりも、「やる言い訳」をつくる


新しい挑戦に直面すると、多くの人は「やらない言い訳」を探しがちです。「時間がない」「リスクが大きい」「もう少し準備が必要」といった言い訳が浮かびます。しかし、このような言い訳を重ねると、挑戦する前に勢いが失われ、結果的にチャンスを逃してしまいます。

逆に、勢いに乗る人は「やる言い訳」をつくるのが上手です。たとえば、「せっかくの機会だから試してみよう」「これが成長のチャンスかもしれない」といった前向きな理由を自分に与えます。勢いを「やる言い訳」に変えることで、挑戦へのハードルが自然と下がり、行動に移しやすくなります。


勢いを生み出すだけではなく、既存の波に乗る


多くの人は「自分には勢いを生み出す力がない」と考えているかもしれません。しかし、勢いは必ずしも自分一人で生み出す必要はありません。大切なのは、すでに生まれている勢いを見極め、それにうまく乗ることです

例えば、会社の中で誰かが新しいプロジェクトを提案し、そのプロジェクトが少しずつ注目を集めている場合、その波に積極的に参加することで成果を共有し、新たなチャンスを掴むことができます。自分が震源地でなくても、波に乗ることで得られるものはあります


「緩衝材に覆われた自己」と「多孔的な自己」


勢いに乗るためには、自己理解の変革も必要です。ここで参考になるのが、哲学者・谷川嘉浩さんが著書『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』で提唱する「緩衝材に覆われた自己」と「多孔的な自己」という二つの概念です。

  • 緩衝材に覆われた自己(buffered self)
    自分の内と外を膜で覆い、外部からの影響をノイズとして排除し、内側の純粋性を尊重する自己のイメージです。これは近代社会が育ててきた「確立された市民=個人」のイメージとも言えます。外部からの影響を避け、自分の価値観や判断基準を守ろうとする姿勢が特徴です。

  • 多孔的な自己(porous self)
    自己の境界に多くの「穴」が開いており、外部の世界と絶えず相互に影響し合っている状態を指します。他者や環境との相互作用を積極的に受け入れる柔軟な自己像です。外部の影響を「誘惑」として受け入れ、新しい発見や学びを得ようとする姿勢が特徴です。

勢いに乗るためには、「緩衝材に覆われた自己」から「多孔的な自己」へのシフトが求められます。自分を外界から隔離された独立した存在と捉えるのではなく、外部の刺激やチャンスと常に接続している存在と認識することが重要です。この視点の変化により、日常の中に潜む小さなチャンスにも敏感になり、自然と行動が促されるようになります。

「多孔的な自己」の考え方を取り入れると、新しいことに挑戦するハードルが下がり、実験的な行動が増えていきます。こうした行動が、自己と外部をつなぐフィードバックループを強化し、感受性を高めていきます。これにより、「誘惑される力」、つまり外部の魅力やチャンスに心を動かされ、自然とその流れに乗る力が育ちます。

この「誘惑される力」は、勢いに乗るための重要な要素です。外部の刺激に対してオープンであることで、新しいチャンスを自ら引き寄せることができるようになります。


さいごに


勢いに乗る技術は、単なる行動力ではなく、自己理解と考え方と物事への向き合い方の転換に深く関わっています。コスパ・タイパ主義を超え、「緩衝材に覆われた自己」から「多孔的な自己」へのシフトを意識し、「やらない言い訳」ではなく「やる言い訳」を見つけることで、自然と勢いに乗れるようになります。

次に訪れるビッグウェーブを逃さないために、自己の境界を緩め、「誘惑される力」を育てていきましょう。「乗るしかない、このビッグウェーブに」という心構えが、新たな可能性を切り開く鍵になるのです。

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