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ぼくのフィッティング心得

この仕事をしていると「フィッティングとは」「心がけていることは」という質問をよく頂きます。

フィッティングは「バイクを身体に合わせる」作業


バイクフィッティングは文字どおり「バイクを身体に合わせる」作業です。身体をバイクに合わせる(慣らしていく)ものではありません。身体を整える作業ではなく、人それぞれの身体(関節の可動域)に合わせてバイク=自転車を調整する作業の総称なのです。

ですから、トレーニングとは異なります。トレーニングはスポーツのパフォーマンス向上を目指して行う作業の総称で、身体機能を高度に発達させることです。その意味では、フィッティングはトレーニングの準備作業であり、トレーニング要素のひとつともいえるでしょう。

自転車は見た目以上に複雑な機械です。私たちに身近な移動手段ではあるものの、より遠くへ速く移動しようとすると、機械を使いこなす必要があります。では、ママチャリはなぜ簡単、手軽かというと、ほとんどの用途では短時間、低負荷で乗っているので、特殊なスキル(筋骨格系を動かす技術)は不要だからなのです。
ロードバイクは用途のいかんを問わず、言うなれば遠くへ早くたどり着くための乗り物です。そのためにはできるだけ身体負荷を少なくおさえて快適に効率よく大きい力をだす必要があります。では、自転車の動力源はどこでしょう? 

自転車は下肢というクランクを筋肉が動かして進む

大雑把に言うとヒトの股関節の動きを源(みなもと)にしています。では、股関節はどうやって力を自転車に伝えて動力に変換しているのでしょう。股関節>膝関節>足関節>ペダル>クランク>チェーン>歯車>車輪(タイヤ)につながる構造を利用しています。

そして、ヒトの下肢そのものが有機的なクランク構造、てこの組み合わせなのです。大腿骨>脛骨>足がそれに相当します。このシンプルな事実にほとんどのサイクリストは気づいていても生かしきれていないのです。つまり、筋骨格系の最適化がフィッティングであり、クランク構造=骨格の動きを最適化して、周辺の筋肉をバランスよく動員できるように調整する作業がフィッティングなのです。

しかし、ヒトの身体は都合よく切ったり貼ったりできません。そこで、自転車の部品間の距離を調整して、その人の筋骨格系が気持ちよく動いてくれるように、バイク側を調整するのです。

気持ちよく動く根拠は、人それぞれの関節が動かせる角度=可動域によります。しかも、あなたのひと踏みと私のひと踏みは力の大きさも動きの速さも異なるのです。だから、乗り手それぞれの可動域=柔軟性に合わせたカスタムメードの調整が必要なのです。

「フィッターはメソッドに基づいた優秀なオペレーターであるべき」

そして、快適性を担保する一定の基準、フィッティング理論(メソッド)は解剖学と運動学に則り、医学博士やそれに準ずる専門家が組み立てたものです。「フィッターはメソッドに基づいた優秀なオペレーターであるべき」というのが僕のフィッティングに対するスタンスです。

フィッター自身の経験値に頼ったフィッティングもありますが、それが万人に受け入れられるかは疑問です。それはあるべき姿に落とし込む作業となってしまい、いま現在の乗り手の身体特性に合わせた調整とはならないからです。メソッドベースであれば人それぞれ異なる身体特性に合わせた調整が可能です。

あるべき動作に見合わないなら排除する、動作を獲得できない者は自転車の楽しみを満喫できない、というのでは自転車本来の自由さ、身体能力の拡張性、趣味性すら妨げてしまいます。フィッティングがこれらの助けになればというのが僕の立ち位置です。

フィッティング=調整、トレーニングの循環を回せ

一方で競技は別のベクトルをもっています。誰よりも速く走るためには少しでも多くのスキルを獲得して、柔軟性を高め、筋力をつけてパフォーマンスをあげる必要がある。そのためにあるべき姿に近づく、トレーニングが必要ということであり、それがトレーニングです。

経験値に頼ったフィッティングは結果的にトレーニングの要素が強くなります。あるべき姿に段階的に到達するための方法としては有効ですが、フィッティング本来の役割からは著しく逸脱するものと考えています。これらを否定するものではなく、むしろ異なるフェーズの作業としてひとつの循環にあると位置付けています。(図)

言葉は動きを司る

また、言葉の定義は思っているよりも大切で、時に厄介です。言語は神経回路を通じて、筋肉へコマンドを送り動きを操作しているからです。間違った定義で動きを覚えてしまうと動きはちぐはぐなものになり、パフォーマンスが落ちます。動作だけでなく作業についても適切に定義することで効率を高め、一貫性を保持できるよう努めています。

たとえば、フィッティングにまつわる言葉としてポジション、フォームがあります。それぞれの役割を考えたことがありますか。

フィッティングは;
乗り手の効率的な下肢の動作を実現して、自律的なフォーム変化を可能にするポジションを整える作業

ポジションは;
乗り手とバイクの接点(グリップ、サドル、ペダル。クランクを含む)の集合。これらが乗り手のフォーム変化を可能とする状態

フォームは;
乗り手が負荷の強弱に対応するために動的、自律的に姿勢を制御できる状態

と定義しています。順を追ってブレイクダウンするとわかりやすいかと思います。

プロ選手もツーリング派もやることは同じ

僕はロード、トライアスロンだけなくツーリング志向やMTBの方にもフィッティングを提供しています。中には五輪経験者や日本王者のクライアントもいますが、提供する中身は基本的に同じです。なぜなら股関節を動かして動力を得るという、乗り手の基本動作はジャンルやフィジカルを問わず共通だからです。

また、身体感覚はプロだから鋭敏、趣味だから劣っているということはありません。むしろ逆もあります。その意味ではコミュニケーションに気を配ります。具体的には使う言葉を選ぶようにしていますし、自分がペダルを踏む際にどの部位を動かしているかを理解してもらうために関節を触って意識してもらうこともあります。

ただし、バイク上での調整時は動作やフォームの状態を説明してその良し悪しを伝えることはありません。「〜なのでいい(はず)ですね」とは聞かず、「どうですか」としか聞きません。あくまでその方が自分自身にとって受け入れられるかどうかを判断できるように導きます。誘導尋問を避けるのです。

一方でそもそも動作が破綻している場合はスキルをお伝えして、適切な動かし方に導く場合もあります。とくにペダルは「引く」のではなく、「踏む」という表現を使って、ニュートラルなポジションで効率よく動力を得られるようお伝えしています。くわしくは長くなるので別の機会に説明しましょう。

さいごに、僕はプロ選手の経験もありませんし、特段速く走れるわけでもありませんし、ましてやお医者さんでもありません。しかし、自転車に乗る際の身体動作については専門家です。フィッティングに予断は禁物。その方の用途、ニーズに合わせたサービス提供が身上です。最終的には快適に楽しく乗れることがすべてなのですから。


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