香港本紹介 −「香港道路探索 路牌標誌 x 交通設計 (增訂本)」
香港旅行が気軽にできなくなって久しいです。
まぁその気になれば行けなくもないですが、やれオンライン健康申告の入力だの、迅速抗原検査の陰性結果の取得だの、ワクチン接種証明書だのと色々な準備が必要です(12/11/2022現在)。さらにスマホに「安心出行(LeaveHomeSafe)」アプリを入れなくちゃなりません。
さらにこの円安ですよ。どうしてくれるんですか。最近の為替レートは、私の学生時代とあまり変わらなくなって来ました。逆に言うと、LCCもネット予約もなかった時代に随分無理して旅行していたんだな〜と、今更ながら思います。
ひょいと思い立って香港旅行が出来るようになるのは、もう少し先の話になりそうですね。
私は昔から香港に行くと必ずレコード屋さんと本屋さんに立ち寄ります。CDと違い、本は重いのであまりたくさんは買えないのですが、一冊も買わずに帰国したことはないのです。
とはいえさすがに最近は新しい本をチェックするのはネットが頼りになり、今回紹介するこの本も中華書局のネット通販で購入しました。
この本は、香港の「Road Research Society 道路研究社」という団体のメンバーである邱益彰氏が著したものです。「增訂本」ということなので、以前に出た本にいろいろ書き足した本ですね。
まさかこんなマニアックな本が出版されるとはねぇ。世の中にはいろいろな人がいますねぇ。
で、最近読了。
この本は、全部で5つのパートに分かれています。
それぞれ、
第一章 世界路牌歷史
第二章 香港路牌與交通標誌
第三章 交通事物
第四章 道路設計
第五章 監獄體路牌記載的香港故事
となっています。
第一章では、世界の道路標識の歴史を紹介しています。もっとも「世界」といっても欧米が紹介の中心です。
欧米以外の標識では唯一、日本の高速道路のものが紹介されています。一般に「道路公団文字」と呼ばれるフォントですが、一部の筆画を省略した「ウソ字」が採用された経緯(視認性の向上のためですが…)なども記述されていて、よく調べているな、という印象です。
第二章では、香港の道路標識の例を紹介しています。
香港がイギリスの植民地として発展してきたのは皆さんご存知のとおりで、当然標識もイギリスのものを踏襲するケースが多いです。
そうは言っても、やはり漢字文化圏との違いは大きく、香港オリジナルの標識も多々あります。なぜか日本文字のフォントをパクったような漢字もあって、バラエティに富んでいます。
標識に描かれたミニバスのイラストが、当初14人乗りだった「日産エコー」を参考にしたっぽいとか、今ではすっかり忘れられている話が書いてあったりしてページ数も多く、読みごたえがあります。
第三章では、道路にいろいろ存在する交通アイテムを紹介しています。横断歩道とか信号とかですね。
香港の信号は赤から青に変わる前に、赤と黄が同時に点灯します。日本人としては違和感がありますが、この点灯パターンは交通に関する条約(ジュネーブ条約)に基づくものだそうで。だから香港以外にもこの点灯パターンの国がいくつもあるのです。
第四章では、道路の設計について紹介されています。
右側通行か左側通行かに始まり、交差点の形式や高速道路のインターチェンジなどの特徴が記述されています。
例えばロータリー形式の交差点は日本ではあまり馴染みがないと思われますが、車同士が接触するタイミングが圧倒的に少ないという利点があるんですね。もっとも個人的には慣れるまで少し時間がかかると思っています(運送業としての実体験)。
第五章では、香港の道路標識のフォントの一種である「監獄体」についての記述です。
実は第五章こそがこの本の白眉で、Road Research Society 道路研究社では「監獄体」の研究に力を注いでいます。
さて、「監獄体」という字ヅラにギョッとする人もいるかもしれません。
かつて香港では、囚人の刑務作業に道路標識の製作というプログラムがありまして、そこで標識に書かれた独特のフォントが「監獄体」と呼ばれていました。
ただ、「監獄体」フォント製作当時は家内製手工業レベルの作業だったため、細かく見ると標識によって微妙な違いがあるのだそうです。
現存する「監獄体」の標識の写真も多数あり、ページのボリュームも厚いパートとなっています。「監獄体」の標識が新規に作られることはないので、結構貴重な写真だと思います。
この本は香港で出版されているので、当然ですが中国語で書かれています。中国語が理解できない人にはハードルが高いと思われるかもですが、小説やエッセイなどと違い文学的に凝った表現がほとんどありません。中国語を学習した人でなくても、高校の漢文の授業で成績が良かった人は、案外読めるかもしれないです。繁体字ですから、簡体字にくらべて意味の予想もしやすいと思います。
オススメしたいのは、
・広東語学習者の方
・道路標識マニアの方(いるのか?)
・フォントマニアの方(いるのか?)
・香港で車を運転する(したい)方
といった所でしょうか。
さてこの本の唯一の欠点は、綴じ方が弱いところです。
本の厚さは2cm、340ページもあるので、日本では普通「無線綴じ」という、背表紙を糊で固める綴じ方にするのが一般的ですが、この本は「ミシン綴じ」という糸綴じになっています。
ページは開きやすいですが、何度も読み返すと糸が緩んできそうな気がします。
実は私、この本は著者のサイン入りで購入したので、あまりボロボロにはしたくないんですよね。ボロボロになるほど読まれたほうが著者にとっては嬉しいのかもしれませんが、やっぱり気になってしまいます。
この本の出版元である「非凡出版」は中華書局の若年層向け出版ブランドですが、私の興味の琴線に触れる本を何冊も出しています。
「非凡出版為中華書局(香港)有限公司的子品牌,致力發掘年輕作者,出版流行讀物、心理勵志、漫畫繪本、時尚和職場等題材,以輕鬆方式滋養心靈、記錄時代。」というのがコンセプトです。
世界的に紙の本が売れなくなる中、市場規模が極めて小さい香港で、利益の出る本を継続して出すのはとても大変なことだろうと思います。
中華書局の本社は北京にあり、中国に都合の悪い内容の本は一切出版しないのですが、香港子会社ではこの「香港道路探索」のような意欲的な本を出版してくれているのはありがたいです。
こんな感じでざっくりと紹介しましたが、皆さん興味持たれましたでしょうか?
私が購入した「非凡出版」の本はまだ何冊かありますし、他社の本も含めそのうち気が向いたときにでも紹介したいと思っています。