
「傷の声 絡まった後をほどこうとした人の物語」
医学書院の「ケアをひらく」シリーズの一冊。私は医療従事者ではないけれど、このシリーズをよく読む。どれも素晴らしいし、面白い本が多い。
複雑性PTSDを患った塔子さんのお話。この本も夢中で一気読みした。ごくごく個人的にとても心に残った本だった。
過去の入院時の身体拘束の話から始まる。本当に身体拘束という事が、現在でも行われているのかと思うと心が痛い。色々な事情はあれど、この塔子さんに行われたことは、非人道的であり、人権侵害だとはっきりと思う。とても衝撃を受けた。
この本のタイトルにある、「絡まった糸をほどこうとした人の物語」とあるけれど、本当に塔子さんは頑張られたのだな、と思う。着実に糸を解こうとした記録だった。この本を読んで程度の差は大きくあれど、似たような環境で育った者として、心が痛かったし、やはりあれはそういうことなのか、と実感することもあった。
私は私を取り巻いていた人たちの存命中にその糸をほどこうとしたことは一度もなかった。私の記憶と、私を取り巻く人たちの記憶は違っており、私が衝撃を持って覚えていることも、その人たちにとってはすでに忘れた些細な出来事だったりする。それを私の取り方がおかしいと責められたこともあり、私はその人たちがいなくなるのをひたすらに待った。私には立ち向かう勇気がなかったのだ。そして塔子さんのような勇気を持ってそれに立ち向かったとしても、傷だらけになることは目に見えていたので、勇気も気力もなく立ち向かうことはなかった。
塔子さんの勇気と、ほどこうと行動したことは本当に素晴らしいと思う。こうしてこの本を読めたことを感謝している。私は私のやり方で専門家の手をかりながら、ほどいていこうと思う。絡まったままでは前に進めないこともある。傷と向き合うことは必要なことだと思う。
"わたしは自分のために生きる気はないです。でも他人のために生きるのももう疲れた"
戦争は終わってない。どれだけ治療してもかわってない。傷は傷のまま、わたしの傷は誰にも伝わらない。1人で孤独に耐えるだけ。これは昔から変わってない。いつになったら戦争が終わるのか。終わらない絶望しかない。
いろんなことがあったけどすべて糧となって今の自分に繋がっている・・・・か。あんなに苦しかった日々が「糧」になり得るんだろうか。
からまった糸をほどくために、どれだけの苦労があったのか計り知れない。本当に勇気のある方だと思う。
最後の松本俊彦先生の解説にもあったけれど、リストカットやアルコール依存の当事者からなぜそうしてしまうのかが、詳細に語られた本でもあると思う。一見不可解ななぜそうしてしまうのか、を記録した本でもあると思う。心の痛みを他に代替えする行為だということは、知っておいて良いことだと思う。精神科の密室やその界隈だけではなく、世間に本として公にされたことはとても良かったと思う。
この本を勧めたいとも思うけれど、読む人によって傷をえぐるところもあると思うので、なにも考えずに読んで!とは言いづらいところは確かにある。
塔子さんはこの本の出版を待たずに亡くなられている。この本の中には彼女が真摯に生きて、なんとかからまった糸をほどいて幸せに生きていこうとした記録なので、ぜひ読んで欲しいとも思う。私にはとても良かったけれど、複雑な気持ちもある。どうぞ安全に。