『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』 巻之三 感想
概要
著者:和月 伸宏
初版発行:1995年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社
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発行者による作品情報
感想
剣心の困っている人を見過ごせない優しさ(と、それ故に災厄を引き寄せがちなところ)が頻繁にクローズアップされます。
仲間からは勿論、幕末も今も敵である蒼紫からもこのように一目置かれる剣心。
その優しさの根幹は、剣心が「己の理想に殉じる」つもりで覚悟を決めているからだと思います。蒼紫も言ったように、かつての維新志士は(恐らく新撰組や御庭番衆など幕府側の武士も)「己の理想に殉じていった連中」。剣心自身、敵味方問わず文字通りそうなった者を多く見てきたからこそ、自分が理想を失ったら先に逝った彼らに申し訳が立たない。そういう、ある種"過去に囚われた"ともとれる覚悟があるのではないかと推測しています。
元々の人間性もあると思いますが…多分。
とはいえ、優しさは優しさ。剣心の人の好さに周囲の面々も多大な影響を受けているところがわかります。
特に弥彦。最初の頃は稽古をサボったり減らず口憎まれ口を叩いたりする、口だけは達者な悪ガキ(「強くなりたい」という気持ちは本物ですが)だった彼。それが今では、恵に命を救われている恩義から、役者不足だとわかっていても命懸けで彼女を救いに向かいます。短い間に心身ともに成長している。彼はこの作品の"もう一人の主人公"と言ってもいいと思います。
今回、(モブ相手を除く)戦闘シーンは少なめですが、その随所で剣心の実力や経験が伺えます。左之助の捨て身ともとれる突進を「いい判断だ」と褒めたり、御庭番衆の般若相手にとっさの一撃を食らわせたり。さすが動乱の幕末で"最強"と謳われただけあるな、と思いました。この数シーンだけで"強さ"の説得力を厚くできる和月先生の手腕も凄い。
余談ですが、癋見は神谷道場での戦いの最中、恵を毒殺螺旋鏢で殺そうとしていましたね。弥彦が身を挺したから失敗したものの、かえって彼にとっては助かったんじゃないかと思います。何しろ観柳にとって恵は「大事な大事な金の卵を産み落とす雌鶏」ですから、それを殺したとなれば十中八九彼も消される。皮肉というか悪運が強いというか…。