『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』 巻之八 感想
概要
著者:和月 伸宏
初版発行:1995年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社
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発行者による作品情報
感想
薫にのみ別れを告げ、独り京都へ旅立った剣心。前半は、あえてひどい言い方をすれば彼に"置いていかれた"人たちの心境が描かれています。左之介は怒り狂い、薫は塞ぎ込み、弥彦は東奔西走する。4巻で左之介が言っていた下記の台詞が頭に浮かびました。
「慕って輪をつくる」あるいは「剣心の存在を支えにしている」と言えば聞こえはいいけれど、あえて意地の悪い捉え方をすると、それは「剣心に依存する」と紙一重。"輪の中心"が消えた今の有様を思うと、皆どこかしらで剣心に精神的な依存をしていた(もう少しマイルドに言えば「剣心が自分たちのもとから消えないと勝手に思い込んでいた」)、と言わざるをえないでしょう。もっとも、それだけ剣心に「人を引きつける度量」があるとも言えるのですが。
左之介は斎藤と、薫は恵と一悶着あって京都へ行く決意を固めます。ここでの左之介と恵は名言のオンパレード。
特に左之介の
という台詞には胸を打たれました。
今でこそ圧倒的な強さを誇る剣心や斎藤も、初めは名もなき一剣客にすぎなかった。それでも"経験"を経て生き残ったから、今に至る。経験が足りないのなら積めばいい(命をかけた死線でそうも言っていられないでしょうが…)。
一言で言えば「初心忘るべからず」なんですが、それを「左之介達から見たら"雲の上の存在"の剣心や斎藤にも、彼らと同じくらい未熟な時があった」という具体例を出して"重み"を持たせる。これこそ「物語を創る人」のなせる技だと感動を覚えました。
また、恵の
という台詞には、目から鱗でした。こういうとき、薫のような「さよならを言われた人」ばかり慮ってしまうのですが、「さよならすら言ってもらえなかった」というのは、非情な物言いになりますが「彼にとっての一番じゃなかった」と言われるのも同然。その悔しさを隠して気丈に振る舞う恵の"気高さ"が伝わります。
総じて、和月先生が"言葉"や"心情表現"を大切に描いているのが伺える一幕でした。
後半は、剣心の道中が主。巻町操と名乗る少女と行動を共にしますが、彼女は四之森蒼紫をはじめ御庭番衆に育てられた身の上。その顛末を知っているだけに、彼らの今を言えない剣心。やがて俊足自慢の二人は追いかけっこへと発展していきます。その時の剣心の台詞、
表面上は御庭番衆のことを聞くためつきまとう操にかけた"説教"ですが、自分自身に言い聞かせた側面もあると思います。大義のためとはいえ、自分もやっとできた「流浪人としての繋がり」を断ち切った身ですからね。こういう台詞は字面以上に辛いものです。
やがて、死にかけの青年に出会った二人。「俺の弟と村を志々雄の連中から救ってくれ」と頼まれ、新月村に赴きますが、そこで見たのは青年の両親と思しき、吊るされた男女。
そして押し寄せてきた志々雄配下の者。彼らを殺した理由を見せしめと聞いた剣心は、鬼の形相で配下のリーダーらしき男(余談だが、個人的に彼を"偽武田信玄"と呼んでいる)を吹っ飛ばして一言。
迫力が凄い。殺気が凄い。まさに「優しい奴ほど気をつけろ」(実写映画版のキャッチコピー)です。
斎藤も居合わせ、物語は加速の予感…で今回は終わりです。続きが読みたい。