『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』 巻之二 感想
概要
著者:和月 伸宏
初版発行:1994年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社
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発行者による作品情報
感想
緋村剣心と相楽左之助との"喧嘩"から本巻は幕を開けます。一撃では倒れない左之助の"打たれ強さ"が意味をなさない程の力量差が両者にはありましたが、彼には負けられない理由があった。
その理由は「かつて左之助は赤報隊に属していた」と言えば日本史に詳しい方はわかるでしょうか。明治維新当初は、相楽総三隊長の言っていた「上も下もない言わば四民平等の時代」ではなく、まだ「弱者が虐げられ泣き寝入る時代」だった故に、その煮え湯を飲まされた…と言ったところです。
とはいえ、喧嘩に明け暮れていたのも剣心に(というよりは"人斬り抜刀斎に")怒りの矛先を向けるのも、厳しい言い方をすれば"お門違い"なのもまた事実。左之助のモノローグにもありますが、「本当の意味での新時代を作るため、今なお戦い続ける剣心」と「新時代を諦め、喧嘩で憂さ晴らしをする左之助」という両者では、ある意味戦う前から勝負はついていたとも言えます。
喧嘩では剣心の圧勝でしたが、彼は明治維新の影で犠牲になった者たちへの負い目や責任を感じているので、精神的には痛み分け…といったところでしょうか。
一難去ってまた一難。今度は警察署長から、兇賊"黒傘"の討伐を依頼されます。その中で剣心は目論見通り標的を自分に変えることに成功しますが、今度は薫を人質に取られ、彼女を命の危機に晒すことになります。怒りが頂点に達した剣心は、遂に"人斬り抜刀斎"へと立ち戻りました。
ここの"剣心"と"抜刀斎"の描き分けが凄い。一人称が「拙者」から「俺」に変わっているだけでなく、顔つき(特に眼差し)にこもる殺気が段違い。抜刀斎に戻ったのはほんの25ページほどですが、これだけで伝説的な強さや"無情の人斬り"だったという過去に覆しようのない説得力が付加されました。読者の皆様にも相当強く印象つけられたと思います。
抜刀斎に立ち戻ってからの勝負は、一瞬でつきました。刃衛も「心の一方"影技" "憑鬼の術"」で強化されたし、メタ事情込みでも凡夫ならここから結構引っ張ると思うんですよね。でもそうすると、却って"人斬り抜刀斎"の強さに「一撃必殺なのに倒せねーじゃん」的なケチがつきかねない。むしろ、呆気ないくらいの幕引きの方が「達人同士の戦い」って感じが出る。そう考えると、戦い自体はこの終わり方が至高だなと思いました(余談ですが、『ONE PIECE』でもロロノア・ゾロの戦いはそういう幕引きが少なくない。尾田栄一郎先生はかつて和月先生のアシスタントを務めていたので、そういうところでも影響があるのかな?)。
ただし、こちらも剣心が負った精神的なダメージはかなりのもの。なぜなら、刃衛の口から「自分に人斬りを依頼したのは維新政府の上層部」ということが明かされたからです。その上、「お前の本性はやはり人斬り」「人斬りは所詮死ぬまで人斬り」と言われた剣心の動揺は察するに余りあるものでしょう。
それでも、刃衛のその言葉を聞いてなお「不殺の流浪人」であり続ける覚悟を固めます。その覚悟の元には、かつて言った「明治維新の犠牲になった人々への償い」も含まれていると思っています。
余談?
比留間喜兵衛のパンチラならぬ褌モロが一コマだけあります。第一幕でのこの人の失禁といい、誰得なんだろう…?
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