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『1日外出録ハンチョウ』 1巻 感想
概要
協力:福本 伸行
原作:萩原 天晴
漫画:上原 求、新井 和也
初版発行:2017年6月6日
発行者:森田 浩章
発行所:株式会社 講談社
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発行者による作品情報
地の獄・・・・!底の底・・・・!帝愛地下労働施設・・・・!劣悪な環境である地下にいながら「1日外出券」を使い、地上で贅の限りを尽くす男がいた・・・・!その名は大槻・・・・!E班・班長にして、1日を楽しみ尽くす匠・・・・!飲んで食って大満喫・・・・!のたり楽しむ大槻を描く、飯テロ・スピンオフ第1巻・・!
感想
悪魔的スピンオフ・・・・・・・・!
1日外出の楽しみ方しかり、大槻班長のコミュニケーション能力や商才しかり、もう「悪魔的」としか言いようがないです。
「第3話 捻込」や「第6話 前世」のような人情100%的な話も好きですが、なんといっても大槻班長の"悪辣さ"と制作陣の"漫画力"が光る「第1話 玉座」は珠玉。
本作初の1日外出で大槻班長が行ったのは「立ち食いそばで酒を飲む」というなんてことのない行為ですが、これが悪魔的。スーツを着ることで自身を「どこかの企業の重役」っぽくして「昼間から酒を飲んでも許される」感じを演出し、「サラリーマンたちへの優越感」を倍増。これ自体も十分すぎるほど悪賢い行いなのですが、(読者目線で)秀逸なのは食事の描写。食べ物も食べる大槻らの様子も変な演出一切なしで、擬音も福本作品独特のものなんですが、これがまあすごく美味しそう。見ていて「お腹がすく」を通り越して「大槻らと同じものを食べたくなる」レベルの"シンプル・イズ・ベスト"な食事描写で、各話掲載後に出た食事のレシピ(特に第3話の"オムレツライス"と第6話の"ねぎトロ丼")を検索する人が大量発生したのも頷けます。
また、「重役クラスの人が立ち食いそばで酒盛り」という「ありえなくも…ない……かな?」という絶妙なシチュエーションを演じた発想力や、食事という「説得力のある描写」を交えることで黒服の説明台詞を説明っぽくさせない構成力にも脱帽しました。
「第1話に必要な要素」を逃さないでいて「キャラが生きているような自然さ」を感じられる、さながら「模範的第1話」。この第1話が大ウケしたのが本作を大人気作に押し上げた一番の加速装置ではないでしょうか。
また、特別読み切り「1日個室録ヌマカワ」では、大槻班長の側近・沼川が1日個室でくつろぐ様が見られます。1日個室、ぱっと見は温泉旅館の一室みたいで良さげなんですがそこはドブラック企業帝愛。ビールは3本まで、テレビや本は全て帝愛関係、ルームサービスなどは子供騙し同然という安定のケチっぷりで、開始から4時間未満で沼川が圧倒的手持ち無沙汰に陥ったシーンではその重くどんよりした感じがこっちにも伝わる始末。「やることがない」ことの恐ろしさをまざまざと突きつけられました。とはいえ、あの激重労働を1日休めるだけでも地下ではかなりマシだとも言えますが…。
カラオケがマトモだったのが救いでしょうか(あの帝愛と考えると、これだけでも奇跡レベルかもしれない)。黒服がうっかり扉を閉め忘れていたのか、それを含めたある種の嫌がらせなのかはわかりませんが、その熱唱ぶりが現場にダダ漏れなのはまた別の話…。
そりゃあのっけから「あったなそんなの」って言われますわ。