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『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚─』 巻之十 感想


概要

著者:和月 伸宏

初版発行:1996年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社

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発行者による作品情報

【デジタル着色によるフルカラー版!】十本刀の一人、"刀狩り"の張に伊織が拉致された。助けに行った剣心は、赤空の最後の一振りを手に闘うことになる。子供を殺すという張の言葉に剣心は不殺の誓いを破り、ついに抜刀するが…!?

Apple Books|和月伸宏『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚─ カラー版10』

感想

 剣心の中に眠る"人斬り抜刀斎"の恐ろしさ、彼がこれから戦う敵"志々雄一派"の強大さ、そして本作なりの「剣客の本質」が余すところなく見せつけられた。そんな本巻でした。

 本巻では剣心と"十本刀"の一人・"刀狩"沢下条張との死闘がメインで描かれます。
 張は自他共に認める「刀マニア」で、数々の「コレクション」を持つゆえ攻め手はもちろん守りや搦め手も豊富。対する剣心は逆刃刀が折れているため攻撃力が激減。全力を出せたとしても苦戦を強いられる相手だとは思いますが、本巻ではそれ以上の苦境に立たされます。戦闘中、剣心は新井青空から御神刀(赤空が造った刀のうち最後の一振り)を受け取りますが、抜くのを躊躇します。操と翁の会話でもあった通り「相手が悪人とはいえ、赤子が人質に取られているとはいえ、一度人を斬り殺してしまったら二度と"人斬り抜刀斎"から戻れなくなる」という懸念が剣心の手をためらわせていたのです。
 結果的に御神刀は逆刃刀(剣心が最初に持っていたものの"真打")だったため、剣心は張を斬り殺さずに済みました。この結果オーライな展開はツッコまれることが多い(僕自身「何かしら『この刀は逆刃刀である』と確信した、ということがわかるシーンを入れた方がよかったんじゃないかな」とは思いますが…)ですが、普段朗らかな剣心の中にある"人斬り抜刀斎"という"闇"は想像以上に深く、彼自身危ういバランスで"流浪人・緋村剣心"を保っていること、ならびにこれから戦う相手はそうやって"人斬り抜刀斎"を覚醒させないと勝てないかもしれない、そして勝たなければいけない相手であるということを描いており、そういう点での緊張感は読んでいる僕の呼吸が荒くなるくらい演出されていました。

 個人的に最注目と感じたのは「剣客としてのあり方」の差異。張は本人曰く「いろんな刀いろんな風に振ってみたい一心」というものが「剣客としての原点」で、その点において「大義のため」である剣心とは真逆です。この対比にこそ本作なりの「剣客の本質」、すなわち「剣を振るうことの目的」が表れていると言えるでしょう。「剣の腕を磨く」「剣を振る」ということにおいて「敵を斬る」ことは目的ではなく過程。「敵を斬った先にどのような世(あるいは"大義")を成すか」こそが目的である、というのが本巻の主題。僕はそう感じました。そして、剣心と張が様々な点(容姿、性格、戦闘スタイル)で対照的に描かれているのもそれを強調しているように感じられます。

 こうして"十本刀"との死闘を終え、「"人斬り抜刀斎"に戻らないまま戦う」決意を固めつつ、現時点でそのためには力不足であると認識した剣心。かつて"飛天御剣流"を教わった師匠のもとへ再び訪れます。剣心がどのようなパワーアップをするのか、まだまだ奥が深い"飛天御剣流"の真髄はいったいどのようなものなのか、ここからも非常に楽しみです。
 欲を言えば、張の「コレクション」をもう少し見たかったですが…、「殺人奇剣のお披露目会」はこの作品のテーマと真逆になるので仕方ないでしょう。

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