#1 「53」
53歳で死ぬ
若い時から
そう決めてた
あと3年と思えば
迷いなく生きていける
あたしの親父の兄貴、つまりあたしの叔父さんに当たる人がね、53歳で亡くなりましてね。ガンでした。あたしが20歳の時でね。
その叔父さんってのが、顔はうちの親父にそっくりなんだけども、ヤクザみたいなうちの親父と違って、賢くて品があって優しい人でねえ。
憧れだった、あたしの。だからあたしも絶対に53くらいで死のうって、若い時分から心に決めてた。
40代の終わりにギラっと輝いて、あとは50過ぎたら病気か事故でサクッと逝く。それが理想だった。
だからね、去年の9月に50歳の誕生日を迎えた途端、大慌てで生まれて初めての自費出版をしたんですよ。最後にどうしても輝きたかった。
10月の頭に詩集を出そうって決めて、そこから一ヶ月で完成して、12月にはほとんど配り終えちまった。自分でも思った以上の早技でしたわ。
さあ、処女詩集も完成したし、後は死ぬだけ。思い残すことなんか何も無いってたかを括ってたんだけども、神様ってのは意地悪でね。
出会っちまったんですよ、五行歌に。つい自分でも書いてみたくなった。それがあろうことか50歳の誕生日の日にですよ。
欲が出ちまった。五行歌の世界でトップを取りたい。五行歌集も出したい。それにはあと3年はかかる。だから53歳までは生きたい。
分かりやすい。その方が、迷いなく生きていける。五行歌集の出版費用から考えても、次が人生最後の本になるんでしょうね。
みなさんね、柴田せのんって人間をどうお考えかは分からないけども、とっくに詰んでんですよ、柴田せのんの中の人って。
理由なんていちいち書かないけども、詰んでんです、あたし。そんな人間が、例えば五行歌の普及だとか、大それた事なんか考えた事もない。畏れ多くって。
あと3年生きて、最後にもう一回ギラっと輝く。それだけですわ。もしも53歳で死ななかったら?まあそん時は、また上手い言い訳考えます。
さんざん53って数字を連呼したけども、あたしみたいな人間が本当に「53(ゴミ)」なんじゃなかろうか。てへ。
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