衣替えに思うこと
衣替えをそろそろしたいなと思う、今日この頃。
まだ肌寒い日もあるから、冬物全てをしまうには勇気がいるけれど、軽やかな夏物にも袖を通したくなる日も増えてきた。
真冬に着るような厚手のセーターだけ先にしまって、夏物が入る隙間を少しだけ空けることにした。
セーターをかき集めて、洗濯用ネットに一枚ずつ入れて、洗濯機で洗って、干して、畳んで、積み重ねる。
黄色が2枚、前開きのものとそうでないもの。白、グレー、ピンク、赤、紫。青、水色、紺、柄物の紺。計11枚。
服がどのくらい必要かは、生活環境や価値観によって大きな差があるものだろう。セーターが11枚あるというのが、多いのかそうでないのかはよくわからない。そして、自分にとって適正な枚数なのかどうかも、よくわかっていない。
ただ、青が好きだということだけはわかった。
色に偏りがありすぎて、うまく使いまわせていないというのは正直なところだ。
捨てられない性格に加え、新しいものが気になるタチであり、人の目が過剰に気になるタチでもある。
10年近く前に買った服でも、流行り廃りに左右されないデザインの、第一線で活躍しているお気に入りは捨てがたい。一方で、服屋に立ち寄れば今年の新作が気になる。最新のアイテムを着た自分を想像して、心ときめかせてしまう。
身なりの整った「気品のあるお姉さん」になることを夢見て、できた服の山。SDGsを目指しましょう、資源を大切にしましょう、という標語に反しているようで、良心が痛む。でも目の前にある真実。一旦受け止めることにする。
ファッションが好きだ。「トップスがオーバーサイズだからボトムスはしゅっとさせて」とか「アクセサリーと靴下を同じ色でアクセントに」とか「コートで素材感に変化をつけるから、他は統一感を出して」とか考えている時間が一番楽しい。
その日の気分で服の色を決める。その日のコーディネートがうまくいけば、気分良く一日のスタートが切れる。コーディネートへの自己採点がそのまま、その日のスタート時点の機嫌になる。
家から駅までの道にある、いつも同じビル。ドアのガラスに写る自分を、横目にちらりと見たとき、その日の機嫌が決まる。コーディネートへの自己採点が、その日の機嫌になる。
こんなこと、本当に楽しいのか?
自分で身だしなみをするようになって20年余り。100点満点のご機嫌で出発できた日が、一体何回あるだろうか。
TPOに合わせて、相手からの印象をコントロールして、適度に自分らしさも演出しつつ。動きやすさとファッション性のバランス。そして朝晩と昼間の気温差。昨日は何を着ていたか、今日会う人に前回会った時、何を着ていたか。
だんだん面倒になってくる。もうなんでもいいじゃん、そんなに周りの人は私の服装なんか見てないよ、と思う。
いやいや、私が見てるのだよ。「みっともない格好……」とか「いつも同じ服着てる……」とか思われている“かもしれない“と思って過ごすのが耐えられないのだよ。私が私のことを一番近くで一番厳しい目で見ている。
だからクローゼットを引っ掻き回すのを止められない。
ぶっちゃけ、ファッションが好きという気持ちではなく、強迫観念なのある。「TPOに合わせてちゃんとした格好をしなければならない」という強迫観念。
気に入ったTシャツとジーパンと靴下、同じものを10枚ずつ買って、毎日同じコーデで洗って着まわせば一番楽である。かのスティーブ・ジョブズは、IT業界だけでなく、そういう生き方も切り開いてくれた。
きれいに洗濯して、きちんと伸ばして、ベランダに並べて干せば、「あの人いつも同じ服着てて不潔…」と近所の人に不審がられることはない。「ちょっと変わった人なのね…」くらいに思われることはあるかもしれないけれど、ゴミ捨てのときに、ちゃんとあいさつすればたぶん大丈夫。
ただ私は、その境地に至るには少々、ファッションへの関心が豊かになり過ぎた。ジーパンを履きたい日もあれば、ひらひらのスカートを履きたい日もある。たまには赤を着るのもいい日がある。自分の好きな服と、あの人に会うとき着たい服は違う。
せめて人様には迷惑をかけないように、最近は前日に服を決めるようにするようにしている。ただ、「やっぱりこっちの気分だな」は止められない。
夜に考えたコーディネートというのは、夜に書いた手紙と一緒で、いささか冷静さを欠いているときがある。
さらには、朝起きたら「思ったより寒いな」とか、天気予報に見覚えのない雨マークがついていたりすることもある。それで一つのアイテムだけ変えてなんとかなるなんてことは稀で、「色の組み合わせが合わない!」「雰囲気が違う!」とか始まっちゃうことがほとんどだ。
天気予報の的中率が100%になれば、対策の講じようもあるのにな。なんていう完全なる八つ当たりで締めくくろうとしている。よくない。
「気品のあるお姉さん」になりたい。ギリお姉さんと言えるうちに。