成功体験への固執と転倒
この記事はフルリモートデザインチーム Goodpatch Anywhere Advent Calendar 2021 15日目の記事です。
VUCAと呼ばれる変化の激しいこの時代、解決すべきイシューはどんどん複雑になり続けています。スタープレイヤーが一人でリードする時代は複雑なイシューにより終止符が打たれました。今はスタープレイヤーよりもチームが求められています。
私の所属するGoodpatch Anywhereは、結成当時からチームで戦うことを大事にしています。
特殊技能を持つメンバーをたくさん集めて、世の中やユーザーのイシューに立ち向かえるようにすること。優秀な異端同士をぶつけて共創を促し、新しい答えを探し出すこと。スタープレイヤーだけではなく、チームのために献身的であるメンバーをリスペクトし、円滑にチーム運営をすること。このような方向を目指しながら多様なメンバーに集まってもらい、デザインの力で社会やユーザーの課題を解決するのがGoodpatch Anywhereです。
チームであることを大事にするために、私たちは「心理的安全性」という概念を基礎として様々な取り組みを行っています。
正解はないのでは?という問い
心理的安全性を作るための取り組みの中に「360°フィードバック」という、メンバー同士でフィードバックし合うリフレクション手法があります。メンバー同士で、自分以外の全員にGoodとMoreを書きあい、さらにそのフィードバックについてチームで話をしながら深堀りをするワークです。
今年はじめ、とあるプロジェクトで360°フィードバックを実施しました。
私はとあるPMに「○○さんはAnywhereスタイルのお仕事をほぼ体験してなかったから、他のプロジェクトのやり方をお話する機会をください」というフィードバックをしました。
その後の深堀りワークで、このフィードバックに対してもらったコメントがこちらです。
「Anywhereスタイルはこう!ではなく、正解はないのでは」(原文ママ)
彼は、Anywhereの良いところは「正解をわかっている人なんかいない」「みんな違うことを活かせるAnywhereの良いところ」「いつだって違っていい」と続けて話をしてくれました。
自分たちのやり方が正解だと思っていた私は、彼のお話を聞いて本当に恥ずかしくなりました。
そして同時にゾッともしました。こうやって成功体験に固執していき、自分たちのやっていることを正解とみなし、変化を忘れて、最後は世の中に置いていかれるようになるんだろうなと。
成功体験に固執する怖さ
企業に成功をもたらした価値前提や組織のノウハウは、現場に定着させるべきものとして扱われます。成功パターンでハメるのはゲームだろうと企業だろうと必勝パターンです。
それが組織ルーティーンと呼ばれる「いつものやり方」「いつもの価値観」を作ります。
一度組織ルーティーンができあがると、そのルーティーンを崩すのはかんたんではありません。成功している間は問題になりませんが、組織が下向きのときはルーティンを崩せないと変化を妨げてしまいます。これが組織の怖いところです。
ルーティーンを実行している個人は、自分たちの仕事を正しいと信じています。成功体験は個人の信念を強くします。その逆に、立場が上の人から怒られたりすることでも信念は補完されていきます。補完されていくのはその個人だけではありません。異なる個々人の評価が時間と共に組織内に蓄積され、職場の空気として強化されていくのです。
そんな空気の中で個人がもし「あなたたちのやり方は間違いだ」と言われたとしたら、その個人は自己防衛の姿勢をとってしまうでしょう。「自分たちはこれでうまくやってきたんだ!」「こんな環境の割にうまくやっている!」「だって上司に怒られるじゃないか!」と。
このように、有能なメンバーが生んだ成功体験が作る変化の乏しい固執化された状態を「Skilled incompetence」というそうです。
自分たちを疑うことができるか
組織はその基盤と秩序を形成するために、「結果」を見ながら行動を見直す、いわゆる改善のサイクルを回します。このサイクルは「シングルループ学習」と呼ばれます。
対して、その行動の基盤となっている価値前提の見直しをすることをダブルループ学習といいます。行動と結果のサイクルと、行動と価値前提のサイクル2つの円で描けることから「ダブルループ学習」と呼ばれます。
ダブルループ学習は、基盤や秩序を壊すことにつながりますが、変化の激しい時代へ適応するために必要な学習と言われています。
新しい事象に立ち向かうための基盤や秩序を作るためにも、逆に壊すためにも、「自分は正しい」と固執するのではなく、過去のやり方を日々置き換える必要があります。いわゆるアンラーニングが必要になります。
ただ、先に述べたとおり、自分たちのやり方を疑い、間違いだと認識するのは非常に難しいです。
Anywhereが目指す、自律的に学びが貯まる仕組み
私たちGoodpatch Anywhereは、組織にとって学びが最も大事だと考えています。
これは事業責任者の齋藤恵太が作った資料からの抜粋です。
世の中は絶えず進化するので、昨日の学びは今日の成功だとは限らず、学んだことは日々無駄になっていく。世の中に置いていかれないよう学びの効果が下がるより早く学び続ける。そんな意味をイメージとして示したグラフです (完全なるイメージ)。
学び続けるために最も必要なのは心理的安全性だと私たちは考えています。心理的安全性について知るにはやはりre:Workですね。
ここまで述べてきたとおり、凝り固まったルーティーンから脱却することはものすごく難しいです。
上長はこれまでの正義を評価軸にし、その評価軸が組織の空気を作ります。その空気に反したことを言うと、本人にそのつもりはなくとも「ネガティブだ」「前に進める気持ちが無い」と叩かれがちです。残念なことです。
その叩きはさらなる組織の固執化を生み、組織は学びを貯め変化するのが難しくなっていきます。
心理的安全性が高い組織は、批判を怖いと思う必要が無い組織です。新しい試み、新しい空気、既存の試み、既存の空気をすべてニュートラルに受け止められます。当然、新しいことを歓迎するだけが心理的安全性が高いわけではありません。あくまでニュートラルであることが大事です。
バズワードと化した「心理的安全性」は、単なるゆるふわな関係性を揶揄する言葉として使われることもあります。私たちGoodpatch Anywhereは、本当の意味で心理的安全性を大事にし、絶えず変化する世の中についていくために、ニュートラルに違和感を唱えられる環境を作れるよう、日々チームビルディングに勤しんでいます。
組織の新陳代謝とAnywhere
嬉しいことに、Anywhereには新しい仲間が増え続けています。
新しい仲間たちのおかげで、Anywhereは日々新しい空気を取り入れ、その価値観を変化させています。
私たちはこれからも組織内における価値観の変化、つまりダブルループ学習を意図的に起こすために、手段の一つとして常に新しい空気を歓迎していくつもりです。これはAnywhereというフリーランスや副業メンバーを中心としたドメインマスターが集まる組織の強みにも繋がります。
一方で、常に変化する代わりにやり方が固定化されていないので、特に新しくジョインしたメンバーは「Anywhereのやり方」が見えず苦労をしてしまっています。過去の学びを蓄積し、成功するための法則を「転ばぬ先の杖」にしたり「車輪の再発明」を防ぐことにつなげることは、新しくジョインしたメンバーが安心して前に進むために必要なことです。
変化を受け入れ続けるだけではなく、基盤や秩序を固めていくシングルループ学習も組織を作る上で大事なのです。
※基盤や秩序を固めていく活動をしているメンバーが、先日noteで活動を紹介してくれました。
ダブルループ学習である「価値観の流動性」と、シングルループ学習である「基盤や秩序の構築」、このバランスは非常に難しく、これからも組織やチームと向き合う上で、実験を続けながらずっと向き合うことになるのだろうなと思っています。
成功体験に固執して転ぶところだった
私は過去の成功体験を元に「自分たちの成功体験が正しい」と固執した考えを持っていたことで、メンバーに「Anywhereスタイルをインストールせねば」という解決策しか浮かばなかったのだと思います。まさに成功体験への固執です。自分たちのやり方が絶対の正義だとは限らないのに。
新しくジョインする仲間たちから新しく学び、時には過去の成功体験を捨て、新しいやり方に置き換え、これまでと違う道に舵を切れる環境を作ることは、変化の激しい時代において重要なことでしょう。
私はAnywhereのやってきたことを信じすぎて、組織やチームが転ぶ道を選ぶところでした。今回は360°フィードバックというふりかえり会を通して、自分自身の組織に対する奢りに気づくことができました。Anywhereの仲間には感謝しかないです。
おわりに
今年の9月、私はGoodpatch Anywhereのマネージャーになりました (一般的に言うところの課長ぐらいのポジション)。
地図に旗を立てメンバーが向かうべき道を示し、先頭でその旗に指を指しつつ、中盤で仲間の陣形を整えながら、最後尾でパーティーの背中を押すのがマネージャーの役割かなと思います。
Anywhereはメンバーによる新陳代謝を歓迎しているので、上に書いた役割がすべてだとは思えません。旗も変えれば陣形も変えるし、背中を押すんじゃなくて横で手をつなぐかもしれないです。なんなら手を引いてもらうこともあるでしょう。時代についていくには、世の中に貢献するには、自分自身が置いていかれないようにするには、それぐらいの柔軟さが必要だろうなと思っています。組織は絶えずアップデートが必要です。
ただ、変化に柔軟なだけではダメで、組織には芯が必要なのも難しいところです。規律を整え、習熟させ、仲間たちが安心かつ自律して進めるよう組織の環境を整える必要があります。
アンラーニングからのアップデート速度を挙げる、規律を整え習熟させるのか、そのバランスを見定めて組織運営するのが私がやるべきことの1つかなと思っています。
来年も、これまでAnywhereを作ってきた仲間と、これからジョインする新しい仲間と共に、組織としてのアップデートを繰り返し、社会の進化を後押しし続けられる組織を目指していきます。
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そのためにも
Goodpatch Anywhereには
新しい仲間がもっと必要だよ!
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今回は私の失敗談を交えながらアンラーニングについて書いてみました!
Goodpatch Anywhereは発展途上です。デザインや開発におけるすべてのスキルがハイレベルで組織として整っているかというと、決してそんなことはありません。今もたくさんの失敗をしています。
そのかわり、Goodpatch Anywhereは変化を歓迎する組織です。新しいものを取り入れ、組織に広げていく土壌やスピード感は私たちGoodpatch Anywhereが自慢できることの一つだと思っています。
私たちに共感する方も、そうでない方も、少しでもAnywhereに興味があれば扉を叩いてみてください!一緒にデザインやエンジニアリングの力で世の中をより良いものにしていきましょう。ぜひ下のリンクからお問い合わせください!!
この記事の参考図書はこちら📚
それでは、みなさま良いクリスマスをお過ごしください!
メリークリスマス🎄⛄✨