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泣き顔を見せてはいただけないのなの?

自慢では無いが高校二年生になった今でも虫歯が無い。特に両親が厳しかった理由でも
歯医者さんだーいすきって理由でも無い。
普通に歯を磨いてたらたまたま出来なかっただけである。
が、最近歯茎から出血する様になってしまった。今日も少し血で歯ブラシを染めながら
お掃除を終えた俺はベッドにて横になる

ぐがぁ〜………


気が付いたらおかしな空間に飛ばされていた。着てる服もまるでホストの様なぎらぎらしたジャケットに金のパンツだ。
周りには山の様に積み重なったお菓子、パステルカラーの風。
夢かと悟った俺は何をするで無くその場に座り込んだ

て言うか俺は確かに菓子を食べるが、今はお金を節約する為に自制しとるんだぜ。
それなのに何で菓子なんか夢に

―あっはっはっは!引っかかったな!

突然、周囲が暗転しピンク色した空間に様変わりした。
このピンク色に目の前の乳白色した物体
口腔内か

「俺様はミュータンス菌のクロ!お前は今日寝る前に忘れた事があるよなあ?」

俺が乗ってる歯と二つ離れた歯にて高笑う謎の少年。頭上ハートの様な角、しっぽの先は三角が付いていて、ぱたぱた動いてる。
それに全身真っ黒なタイツ………か。
完全に絵本とかで見る奴だこれ

「わ、忘れてないもん!歯磨きちゃんとしたもん!」

一応小さい子みたいに言ってみた。が、やばい……すんげえ恥ずかしい。てかミュータンス菌もちょっと照れてるし!おい!

「ししし……じゃああれは何かな?」

菌が指さした先にはカラフルな色をした
もはや原型の分からない物体がべっとりと
歯にくっついていた。
それを見ながら周りを見渡してみると一つ気付いた事がある。前歯に被せ物が無いのだ。
俺は小学生の時、前歯を折ったせいで下の右前歯が被せ物をされている。それが無いって事はつまり

ここ俺の口じゃないの………?

「嘘なんてバレバレなんだよ!お前は今日寝る前に歯磨きをしなかったな!お陰でお腹いっぱい食べさせてもらったぜ」

………いやちょっと待てよ。俺は寝る前ちゃんと歯磨きしたし、フロスもマウスウオッシュもしたぜ。お前こそ嘘をつい

てないんか。誰かが歯磨きサボったんだよな
。悪い奴だなあ

「お礼に痛〜い虫歯をプレゼントするよ。
まずはこれを歯にかけてだなあ」

それはすごく小さい容器だった。手のひらしか無いぐらいの容器からちょっとずつ謎の液体が垂れていく

「歯を柔らかくしてなー」

まるで線香の様な煙が昇る。ゴルフのホールカップぐらいしか柔らかくなって無い気がするのだが………

「このツルハシで………えい!」

菌はどこからか取り出したツルハシを柔らかくなった所に振り降ろした。
が、残念ながらそれで空いた穴はたった数ミリである

「えい!えいっ!どんどん痛くなーれ!」

変わらない………変わらないんだけど。
思ってた虫歯の造り方と違う。もっとざくざくざくーーみたいな感じと違うのね

「………あれ?痛くないの?」

ツルハシを降ろしたまま、菌は目を大きく広げてこちらを見た。
やばい、痛くないなんてバレたらあのツルハシで直接攻撃にかかるかもしれん。
ここは

「いた!痛い!すっごい痛いなあ!やめてよう!痛いよう!」

頬を押さえてとりあえずのたうち回った。
全く痛みなんて無いのにのたうち回ったのは
多分これが初めてだろう。それにしても恥ずかしい、恥ずかしいよ!やだよう!

「え………もうそんな痛いの?やっぱり可哀想になってきたしやめちゃおっかな」

菌はひどく悲しそうな顔をして、ツルハシを握ってた手の力を抜いた。からーんっとツルハシが落ちる

「え〜やめちゃうの?よーし!明日からも歯磨きサボっちゃおうかなあ?!」
「な、なにい!?やっぱり再開しよっと!」

ツルハシを強く握った菌はまた虫歯造りを再開した。硬ーい歯をツルハシでかりかーり。
もうざっくりと言うより表面をかりかり掘ってる様な感じである

そして結局、ほとんど穴は空いてない。
菌の体力が尽きてしまった

「も……もう無理。硬すぎだよ人間の歯って。どうなってんのさ」

息を切らして菌は座り込んでしまった。
無理も無い、お前が掘ってる歯はエナメル質が厚い大人の歯な上に第一小臼歯だ。
そんな少ない酸(なんか分かった)で虫歯に出来る理由が無いのだ

「君一人じゃ無理なら仲間とか呼んでみたらどう?」
「仲間?」

「そーれだー!!」

菌は目いっぱいにダイヤのマークを写して
飛び上がった。まるで絵本等で掘削し続けた末に神経まで辿り着いた時の様に

「ふっふー!待ってろよ!すぐに痛がらせてやるからな」

秘策らしい。さっきまでとは比べ物にならない程ニコニコしてる。まあ例えそれが
成功したとしても俺に全くダメージは無いんだが

それは置いといて、菌は何をして………
お、歯の間とか歯茎の境目の食べかすを食べてるのか。
で、それを分解して歯にねばねばした何かを
くっつけると

確かこれはプラークとか言う名前だったな。これを土台に細菌が増殖するらしい。
さて夢の中はどうかなあ

腕を組んで待ってるとプラークから黒いボールの様な物が降ってきた。一つ、二つ……
二十個ほどだろうか

「よーし!暴れちゃえー!」

!?
ボールから角や脚が生えてきて歯を攻撃し始めただと!?
なるほどこれが一応増殖か

「これだけ暴れればすぐに穴も空くでしょ。
どう?痛い?」

もう勝ったみたいに菌は聞いてきた。
まあ痛いはずは無いが。まあ振りだけはしとかないとな

「ち、ちょっと痛いかも………」
「でしょう?」

しかし、増殖した奴らの道具はどう見ても
園芸用スコップだ。しかも小さい、どれぐらい小さいかと言うと菌は絵本サイズで寝ると歯の半分ぐらいの大きさである。
奴らはその足元ぐらいしか無いのだ。
現実の菌に比べたら大きいけど、これじゃ
虫歯なんて出来そうな気はしないな。
いや、意外にも………?

「なかなか穴が空かないな………やっぱり硬いのかなあ」

空くどころか歯の表面に小さな傷を付けるのが精一杯らしい。あの小ささで酸を出してはいるが極わずかしか出せない。つまり歯は硬いまんま。おまけに奴らは永久歯と乳歯の区別すらつかない

「あらら?掘るのやめちゃった!?」

菌があたふたし始めたその時、バラバラに
掘っていた奴らが一斉に走ってきた。

「うわわっ!?硬すぎだよって………そんな事言われても〜」

20匹はみんなして菌に怒っている。
どうやらあまりの硬さに怒りが爆発したらしい

「ダメかあ」

菌が溜息をついた好きにひょいっと奴らの一匹を持ち上げてみた。じたばたじたばた
手と足を一生懸命動かして抵抗して見せるが、その短さじゃ届かない

「なーにかいい方法無いかな……ってうわ!」
「あ!菌が落ちた!」

奴らをひょいと乗り越えた菌は歯の端っこを忘れ、根元の方まで落下してしまった。
多分大丈夫だとは思うが、歯茎にはダメージは与えんで欲しいな。この口の持ち主まで
歯茎の病気になっては可哀想だ

「危ないっ!」

え?!何だ?なんかコウモリみたいのが菌を捕まえたよ!?

「はー助かった………」

そしてなぜ元の歯に戻す。戻してどうすんのよ

「全くミュータンス菌はおっちょこちょい何だから……特にあんたはね」
「ううっ………」

また新しい声がした。目の前に居たのは長髪の美形男子である。菌と同じハートの角が生えており、頭の帽子は赤。上が青いジャケットに下が薄茶いのズボン。首には数珠だか
ネックレスだか分からない何かをかけている

「あ、どうも。この口のご主人様。
私は歯周病菌のララグと言います。と言っても御安心を。今日は偵察ですから」
「偵察………?」

「ええ。住みやすい歯茎かちょっと調べにね。ですが期待はずれにも程がありました。
あなたの歯茎は健康そのもの。入り込む隙が全くありませんので。じゃさら」
「待てよ」

飛ぼうとした歯周病菌の肩を力の限り俺は掴んだ

「歯周病菌って歯周病の原因菌だよなあ」
「えっ……ええ」

「お前にはちいとムカついてんだよ………
何発か殴らせろ!!」
「んぎゃっ!まだ活動して無いのに〜!」

俺は殴った。歯周病菌を生まれて初めて殴った。ポカスカポカスカ……気付けば


「ちっ……気い失いやがったか」

歯周病はたんこぶだらけになって気絶してた

そして、振り替えれば菌共は三つぐらい俺から距離を置き、震えていた

「ニンゲンッテコワイ」

菌は呟く。そんなつもりは無かったのだがな
……ムキになり過ぎたか


「そこまでよ!ミュータンスの一味!」

な、何だ!?また声が………

「いっぱい悪さをしたのだろうけど私がやっつけちゃうから!覚悟しなさい」

前歯だ。前歯に女の子が立ってる。
背中には歯ブラシを背負って。
そうか、絵本でもたまに居るお助けキャラか

「ち、ちょっと待てよ!コイツらは虫歯造れて無いし俺はこの口の持ち主だぜ!退治は止めておくれよ!」
「黙れ!大体お前はこの口の主人じゃ無い!
ほら!」

突然、口腔内に映し出されたのは俺の前歯だった。そして女は下を指さす

「前歯が欠けてないでしょうが!大体そんな格好してる時点で怪し過ぎるのよ!」

俺は自分の服装を思い出した。
金のジャケットにギラギラのパンツ。
そう言えばずっとこの格好だったな!

「さーて……特大スプラッシュと行きますか

ちょっと待て!何だあの頭上の水玉は!?
あれを喰らったら俺もタダじゃすまねえよ!

「ぴっか……ぴかに」

「なれーーー!」

ぎゃあああっ!!流されるー!助けてー!


……



「ぶくぶくぶくっ……ぷはぁ!やはり夢かあ!」

目が覚めたら、朝だった。
自分の格好を確認してみる。上半身下着に下半身はGパンだ。

「最低な夢だった………て言うかあの口の持ち主大丈夫かな?」

のそのそとベッドから移動し、机に置かれていた手鏡を手に取った。
あーんしてみる

やはり虫歯は無いが、歯茎の状態が悪い。

「あんの野郎……ぶっ殺しとくべきだったか」


それからいつも通り行動し、俺は家を出た


「昨日歯磨き忘れてねちまってさ、心配で今朝三回も歯を磨いてきちまったよ」
「ええ?!虫歯になんなかった?」

すれ違った中学生ぐらいの会話が耳に飛び込んできた。どうやら夢に出て来た口の正体らしい

「なんなかった。は良かったんだけど夜中に
水を流し込まれたみたいな感覚になった。
それからなーんか歯がくすぐったかった」
「くすぐったい?虫歯の始まりじゃないそれ」

その犯人がまさか俺だとは言える理由が無く、下を向いて歩いていた

「そうかも………明日歯医者さん行ってみるよ。歯茎も見てもらいたいしね」
「歯茎って………あんたの歯茎はクラス内で一番健康でしょうが!」
「そっか〜」

ぐさりと刺さった矢印のダメージを何とか抑えながら俺は学校へ走るのだった。
ああ………健康な歯茎がほしいよぅ


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