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【第15章】本社決戦 (23/27)【蒼輝】

【目次】

【覚醒】

『くわっ! この死に損ないめが……げぼ、げぼおッ!!』

「それは、どう見てもおまえのことだろ。クソジジイ」

 龍皇女の尾の骨から削りだされた白刃に、アサイラは神経を集中する。己の丹田の底から大剣の切っ先まで、一体になっている様をイメージする。

「……行くぞ。正念場だ」

 使い手の小さなささやきに応じるように、青年の肉体の奥から汲みあげられたエネルギーが、『龍剣』の刀身から噴出する。

 アサイラの剣先からほとばしる輝きは、まばゆいばかりの蒼色をしていた。

『……ぬうッ!?』

 青年に向き直ったオワシ社長が、一歩、たじろぐ。青年は、両手でにぎった大剣の切っ先を背後に向けた、脇構えの体勢をとる。

『くわアッ! 死に損ないの、若造め……小手先、小細工のたぐいで、このオワシ・ケイシロウを出し抜けると思うでないわ──ッ!!』

 老人を包みこむ巨躯の外殻は、腰を落とし、両腕を左右にかまえる。上下左右、全方向に対する斬撃に備える防御姿勢をとる。

 わずかの時間、アサイラとオワシ社長は静止したまま、対峙する。青年は、眼を細め、倒すべき相手を凝視する。巨人が、若輩者をにらみつける。

 両者の緊張が極限まで高まった瞬間、アサイラは『龍剣』の柄を握りしめていた両手を、ぱっ、と離す。

『げぼオォォ──ッ!!?』

 部屋の主の悶絶する声が、社長室に響く。アサイラの『龍剣』は、ジェット噴射のごとき導子力の放出によって飛翔し、その柄が巨人の鳩尾を深く突いている。

『──げぼっ、げぼおッ!!』

 激しくせきこみながら、老人をおおう巨体がひざをつき、周囲の床が揺れる。

 背中にかつがれたリアクターが悲鳴のごとき稼働音をあげて、社長のダメージを回復するためのエネルギーを絞り出し、チューブに循環させていく。

 巨躯の肉体にバウンドしてきた『龍剣』をふたたびキャッチしたアサイラは、老人の復帰を待たずして、駆けはじめる。

「ウラアァァーッ!」

 大剣を、棒高跳びの要領で床に突き立てると、青年は、高く力強く跳躍する。ようやく顔をあげたとき、オワシ社長は相手の姿を見失う。

 高度十メートル近くまで飛躍したアサイラは、放物線の頂点で身軽に一回転すると、老人の真上から『龍剣』の切っ先を下に向けて、降下を開始する。

「ウゥゥ、ラアアァァァ──ッ!!」

『──ゴげぼオッ!?』

 鍔に足をかけたアサイラが、蒼い残光のラインを描きながら、落下する。上方からの衝撃を受けて、巨人の威容を誇るオワシ社長は、再度ひざをつく。

 チューブの巨人の背、老人本体とメインリアクターの狭間。蒼いエネルギーをまとった『龍剣』の刃が、半ばまで両断するかのごとく深々と突き刺さっている。

「御大層に背中にかついだこの機械が、クソジジイの延命装置というわけか。こいつからエネルギーが供給されるかぎり、死ねないみたいだな」

『くわ……ッ! 知った口をききおって、若造が! 導子管が一本でもつながっていれば、いくらでも再生できる……げぼ、げぼおッ!!』

──ギイィィ、ギイイィィィ……ンッ。

 血の涙を流しながら慟哭するがごとく、メインリアクターがうなり声をあげる。赤い光がチューブに伝導し、うごめきながら、巨人の体躯を再構築しようとする。

 老人がまとう異形の外殻を、途中まで斬り裂いた『龍剣』を排出、あるいは取りこまれるまえに、アサイラは右の拳を天井に向かって振りあげる。

「──ウラアアァァァ!!!」

 削岩機のごとき勢いで、青年の拳が真下に向かって突き降ろされる。握りしめたアサイラの右手は、蒼銀の大剣の柄頭に衝突する。

 刹那、『龍剣』の刀身が、爆発するような蒼い閃光を発する。その場に居合わせた女たちは、あまりのまばゆさに思わず目をつむる。

『げぼはア──ッ!!』

 大剣の刃は、巨大な鉄杭のごとく巨人の体躯を引き裂き、ついには『龍剣』の切っ先が金属質の床にまで到達する。

 オワシ社長は前方に、メインリアクターは後方へと倒れこんでいく。わずかなコードが未練がましく糸を引くように残りながら、老人と円筒装置が分離する。

『げぼ、げぼオ……ッ! まだだ。儂は、まだ死ねぬ……我が天命を、成就するまでは。すべての次元世界<パラダイム>を、滅ぼすまでは……ッ!!』

 往生際悪く、オワシ社長はわずかに接続されたチューブから、メインリアクターの導子力を引きだそうとする。

 アサイラは、巨人の骸から跳び降り、赤く輝く導線を踏みつける。

『……アがげぼッ!?』

「いい加減、あきらめろ。クソジジイ」

 床に突き刺さった『龍剣』を引き抜き、かまえなおしながら、黒髪の青年は言い捨てる。老人は、戦闘力はおろか、最低限の生命維持すら支障をきたしている。

 それでも、オワシ社長が諦観する様子はない。妨害されるとわかっていながら、わずかな導管を頼りに、メインリアクターよりエネルギーを吸い出そうとする。

「……死んでも、治らないタイプか」

 アサイラは、後味の悪いため息を吐き捨てる。介錯しようと、大剣を振りかぶる。オワシ社長の心臓に、『龍剣』の切っ先を突き立てようとした、そのとき──

──グワシャアンッ!!

 なにかが粉砕する音が、社長室に響く。青年のすぐ近く、メインリアクターの側だ。アサイラは動きを止めて、視線を向ける。

 巨人の骸の影から、まったく新たな第三者の姿が現れる。もっとも、アサイラにとって知らない顔ではなかった。

「ヒゲ貴族……ッ!!」

「……貴公、『伯爵』と呼びたまえ、と何度言わせるつもりかね?」

 几帳面にワックスでセットされた髪と髭は乱れ、燕尾服もしわくちゃになっているが、セフィロト社のスーパーエージェント『伯爵』の姿がそこにあった。

【瓦解】

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