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【第2部26章】ある導子学者たちの対話 (16/16)【模索】

【目次】

【暗中】

「なんとなればすなわち……『塔』のメインジェネレーターが停止したかナ。おそらく、モーリッツくんのバイタルサインと連動するよう仕込んであったのだろう」

「グリン! 言わんこっちゃないのだわ……悠長に『ドクター』のことを待っていたから、データベースのなかを家捜しできなくなっちゃったじゃない!!」

「その場合、リーリスくんが電脳潜行を試みている、まさに最中に、メインフレームの電源が落ちることになったと思われるが?」

「あー……それはそれで、勘弁なのだわ」

 闇の満ちた中央管制室に、女と老人の声が響く。それ以外の音は、不気味なほどに聞こえてこない。おどろおどろしい沈黙に満ちている。

「このワタシの精密義眼には、当然、暗視機能も搭載してある。なんとなればすなわち、暗闇ていどでは障害となりえないかナ」

「私は、まったく見えないのだわ」

「『淫魔』というふたつ名なのに?」

「それは、あなたたちが勝手に呼び始めただけでしょ。ともかく、なにか明かり持っていないかしら、『ドクター』? これじゃあ、私のほうは身動きがとれないのだわ」

「無論だとも。リーリスくんがディスクのうえに座ったままでは、データのサルベージ作業にも差し障りがあるかナ……」

 漆黒のなかで、完全に視界を奪われているゴシックロリータドレスの女の手に、白衣の老科学者は小型の棒状の装置を手渡す。

 リーリスは、指先でスイッチらしきものを探し当て、押しこむ。先端に、光がともる。ペンライトだ。

「グリン! 準備がいいじゃない。助かるのだわ」

 ゴシックロリータドレスの女は、わずかな光源で足元を確認すると、机のうえから飛び降りる。ドクター・ビッグバンは、床に倒れていたディスクチェアを起こすと、入れ替わるようにモニターとキーボードへ向かう。

「そのペンライトは、出力をあげればレーザートーチともなる。なんとなればすなわち、隔壁は難しいが、扉のロックていどであれば焼ききれるかナ」

「ますます、ありがたいのだわ! でも、そんなエネルギーが、こんな小さな機械のなかにつまっているわけ?」

「次元転移者<パラダイムシフター>向けの導子兵装と同じ仕様かナ。使用者の導子力をエネルギー源として動く。照明ていどならともかく、フルパワーでの使用は、それなりに消耗する。気をつけたまえ」

 白衣の老科学者はリーリスのほうを見ることなく、暗闇のなか、精密義眼を赤く光らせながら、ディスクのうえの導子コンピュータの端子とケーブルをチェックする。

「グリン。りょーかい、りょーかい……私は、ここから別行動したいけど、よいかしら? 中央制御室にくる途中、『塔』のなかに監禁された友だちを見かけたのだわ」

 ゴシックロリータドレスの女は、ペンライトの光量を絞りながら、肩をすくめてみせる。ドクター・ビックバンは、管制インターフェイスの検分を続けている。

「かまわないが、気をつけて行くといい。このワタシやリーリスくんならば、征騎士レベルの相手でなければ驚異にはならんと思うが、注意するにこしたことはないかナ」

 中央制御室の扉に向かって歩きはじめていたゴシックロリータドレスの女は、なにかを思い出したように足を止め、白衣の老科学者のほうを振りあおぐ。

「そうだわ……大した情報はスキャンできなかった、って言ったけど、のぞき見できた大したことのない情報は伝えておこうかしら?」

「なんとなればすなわち……興味深い。聞かせてもらおうかかナ?」

 ドクター・ビックバンは、導子コンピュータのコードをつなぎ直しながら、リーリスの申し出に首肯する。

「残りの征騎士は、3名だわ。序列は1位、3位、7位……どんなやつらなのか、詳細まではわからなかったけど」

「吉報かナ。なんとなればすなわち、我々の『シルバーライトニング作戦』が順調に成果をあげ、グラトニア帝国に打撃を与えていることを意味する……」

「それで、『ドクター』。あなたは、これからなにをするつもりなのだわ。『塔』の電源が落ちたってことは、機能も停止したってことじゃないの?」

「ところが、そうとも言いきれないかナ……なんとなればすなわち、このワタシの推測が正しければ、この『塔』は電源うんぬん以前に、ただ立っている、そのことに意味がある……」

 白衣の老科学者は、導子コンピュータから伸びるコードの端子部分を、点滴のチューブのように自らの左腕に突き刺す。ドクター・ビックバンの肉体から導子力が供給され、モニターに明かりがともる。

「……この『塔』、次元融合現象と関係があるのだわ?」

 リーリスは、胸のなかのざわつきを誤魔化すように、白衣の老科学者に質問の言葉を投げかける。

「なんとなればすなわち、確証がほしいかナ……かなうのならば、『塔』の自壊手段も、だ」

 ドクター・ビッグバンの指がキーボートをはじくと、中央管制システムが省電力のセーフモードで起動する。

「なにをしているのかナ、リーリスくん? 用事があるのならば、手早く済ましてきなさい。なんとなればすなわち、最終局面……アサイラくんとグラー帝が接触するまでに残された時間的猶予は、そう多くない」

 白衣の老科学者の言葉を受けて、ゴシックロリータドレスの女は無言で小さくうなずくと、闇の迷宮と化した『塔』の通路へと駆けだした。

【第27章】

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