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【第15章】本社決戦 (13/27)【再進】

【目次】

【覚悟】

「──龍皇女ッ!!」

 通路の向こうから悠然と歩み寄る相手の肩書きを、『淫魔』は叫ぶ。純白のドレスを着こなす人間態の上位龍<エルダードラゴン>は、動じる素振りも見せない。

「あなた、どうやって……あの次元障壁を、超えてきたのだわ」

「ええ。ここまで駆けつけるにあたって、それは最大の難題ですわ。わたくしも、大いに頭を悩ませました」

 龍皇女──クラウディアーナは『淫魔』の至近距離まで歩み寄ると、わざとらしく自らのあごの下に人差し指をあてつつ、優雅な仕草で首をかしげてみせる。

「ですが、我が伴侶と、ついでに『淫魔』が乗りこんだとあれば、隙を見せることもあろうと、観測を続けておりました。すると、一瞬、わずかに障壁が開いたのですわ」

「それって、もしかして……」

「虚無空間のどこかで比較的大きな爆発があったようですが、我が伴侶の救援が急務ですわ。そちらのほうは、無視させてもらいました」

「グリン……やっぱり、私の『部屋』が爆破されたときに……」

 右手のひらを額にあてて、倒れこみそうなほど大きな仕草で『淫魔』はうなだれる。次の瞬間、何かを思い出したかのように、勢いよく上半身を起こす。

「ちょっと待つのだわ、龍皇女……じゃあ、この娘たちはなんなの!? この様子だと、ほかにも連れてきているんでしょう!!」

「『淫魔』のやり方を、真似しただけですわ。肌を重ねたときに読みとることができた、我が伴侶と縁<えにし>の深い者たちを招きました」

「方法じゃなくて! なんでこんなところに連れてきているのだわ!? それも、リスクの少ない投射型じゃなくて、死にかねない転移型召喚でッ!!」

「各人、同意のうえですわ。そもそも、対象の了解無しでの転移型召喚が如何に困難かは、『淫魔』のほうが詳しいのでは?」

「……そういうことじゃなくて。ああ、もう。召喚しちゃったものは、どうしようもないのだわ」

 今度こそ脱力して、橋の欄干に身を預ける『淫魔』のまえを、龍皇女が通り抜けていく。貴人の手には、成人した大人でも難儀しそうな重量の大剣が握られている。

「忘れ物ですわ、我が伴侶。これはもはや、そなたの剣です」

「……ディアナ、どの」

 未だうずくまるアサイラのまえに、龍皇女は大剣の柄を差し出す。一瞬、青年は躊躇する。そして、上位龍<エルダードラゴン>の手から、大業物を受け取る。

 龍皇女が自らの尾を斬り落とし、その骨から鍛え出され、長い時を経てアサイラへと正式に譲渡された最初の『龍剣』。青年の両腕は、あらためてその重量を感じる。

「──グヌッ」

 アサイラは、顔をあげる。クラウディアーナも、つられて背後を振り返る。通路から、敵兵の足音が近づいてくる。さきほどよりも、さらに数が増えている。

 立ち向かおうとする青年を制するように、エルフの巫女が前に出る。ゲート前の女ライダーも、愛馬の体勢を整える。

「アサイラさま……この場は、どうか此方たちにお任せいただけないかしら?」

「この一本橋ほど、足止めに適した場所はないだろ。ウチらにも、少しは活躍させてもらわないとな」

「それでは、参ります。急々如律令──ッ!」

 アサイラの返事を待たずに、ミナズキとナオミは動き始める。長耳の符術巫の手から五枚の呪符が放たれ、空中で鷹の式神へと姿を変じる。

 射線を確保し、サブマシンガンを構えたセフィロト兵たちは、たちまち猛禽のかぎ爪に襲いかかられ、射撃を妨害される。
 
「ウチも、見せ場だろ。行くぜ、相棒ッ!」

 続けて、ナオミが蒸気バイクのアクセルをひねる。急発進したフルオリハルコンフレームの鉄馬は重力を無視し、壁を、天井を、螺旋を描くように駆け抜ける。

「喰らいなアァァーッ!」

 三次元方向の突撃を受けて、警備兵の小隊はもろくも吹き飛ばされ、意識を失う。通路の曲がり角からは、なおも増援が迫り来る。

 女ライダーは、廊下に転がるサブマシンガンを拾いあげると、牽制の銃弾をばらまく。制圧にはほど遠いが、相手の足を止めるには十分だ。

「バッド。どれだけ湧いてくるんだよ、カカシども……だが、グッド。ずいぶんと頼りになるだろ、ミナ」

 フルオート射撃を続けながら、ゲートまで後退するナオミの横を五頭の狼が駆け抜けていく。ミナズキが追加で放った式神だ。

 増援の兵士たちが足止めされている三差路に猟犬の群れが飛びこんでいくと、悲鳴が通路を反響し、血しぶきが周囲に飛び散る。

「トン、ツー、トン、トン……よし、通ったみたいだな」

 進行路側のゲートに張りつき、コンソールを操作していたシルヴィアが、アサイラたちのほうを振り向く。狼耳の娘の背後で、ロックされたシャッターが開いていく。

 龍皇女は、シルヴィアに対して満足げなうなずきを返すと、アサイラと『淫魔』を後目に歩き出す。

「ちょっと、龍皇女! あなたも、一緒に来るつもり!?」

「しんがりの二人は、十二分な技量の持ち主ですわ。不安はありません」

「そういう意味じゃなくって……ああ、もう、わかったのだわ! アサイラのほうは、動けるかしら!?」

 人間態の上位龍<エルダードラゴン>の後を追いつつ、『淫魔』は青年のほうを振り返る。アサイラは、ひざを屈伸させて、己の肉体の具合を確かめる。

「ああ……これなら、どうにかなりそうか」

 大剣を手にした黒髪の青年は、まず『淫魔』に、続いてシルヴィアとクラウディアーナに視線を向ける。四人は一斉に、セフィロト本社中枢部に向けて走り始めた。

【社長】

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