【第6章】少女の休日 (5/8)【偵察】
【呼出】←
重低音のパンクロックが、装甲バギーの車内に反響する。ビートに合わせるように、トゥッチは鼻歌でリズムを刻む。
トゥッチが操る装甲バギーは、都市外縁部の農業地帯を抜けて、グラトニアの荒野を疾走する。
「ヒューッ!」
整備されていないオフロードは、サスペンション越しに車体を激しく揺らすが、トゥッチはその振動を楽しむ。
やがて、ナビゲーションシステムが、ドクターの指定したポイントへの到着を知らせる。トゥッチは、石造りの遺跡のすぐ横に、バギーを停車させる。
「ガキの石積だ、これがな」
トゥッチは、遺跡をつまらなそうに一瞥すると、周囲の探索を開始する。孫娘当人の姿はない。
代わりに、石の尖塔の根元で、少女のポーチが落ちていたのを発見する。トゥッチは、あきれたように古代の構造物を見上げる。
「コイツを、見物しに来たってのか? ガキの考えることは、わかんねえ」
トゥッチは、バギーのもとに戻る。車体後部のコンテナを開くと、内部に収められた無数のドローンが姿を現す。
続いて、トゥッチは助手席側のドアを開ける。同乗者の代わりに座席に乗せられたのは、大型のガスボンベだ。
「例の試作装備か、これがな」
にやり、と笑ったトゥッチは、漆黒の防刃コートの内ポケットから風船を取り出す。風船の口をボンベにつなげ、バルブをひねる。
ガスが充填されて膨らんだ風船の根元を器用に結ぶと、今度はそれをドローンに取り付ける。ドローン全部に風船を結ぶと、バギーの運転席に戻る。
「準備完了、と。捜索開始だ、これがな」
トゥッチは、タブレット型デバイスからドローンの制御プログラムを起動する。風船を頭に乗せたドローンたちは、一斉に空へ飛び立っていく。
液晶画面には、ドローンたちが空撮したリアルタイム映像が映し出される。緑色の下草、石灰石、朽ちかけた遺跡の広がる荒野だ。
「どこまでも、つまんねえ景色だな。本当の僻地ってやつだ、これがな」
トゥッチは、しばしハンドルのうえに足を投げ出し、無人機のカメラが送信してくる映像を眺め続ける。
やがて、ドローンの一機は、広大な平原の一角に複数の人影を発見する。トゥッチは、カメラの望遠機能を起動する。
原住民の男たちだ。どこから手に入れたものか、アサルトライフルで武装し、導子通信機らしきものを耳に当てている。
「ビンゴだ、これがな」
トゥッチは、人影を発見した座標にドローンを集めさせる。自分自身も運転席に座り直し、アクセルを踏む。
→【標的】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?