見出し画像

【Divellec】この店があるからパリに来る

1月1日の夜。
2022年最初のディナー。
迷うことなくDivellecを予約した。
https://www.divellec-paris.fr/

前回の訪問についてはすでに詳しく書いた。

12月上旬に訪れて以降、いくつもの魚料理専門店に足を運んだ。
満足できない店のほうが多かったし、その度にDivellecの素晴らしさを嚙み締めた。
ここはパリの魚料理の最高峰だと思う。
いや、パリで最も素晴らしいレストランの一つだろう。

店の前の公園ではホームレスに食料や飲料が配られている。
以前にも同じ場所でみかけた光景だ。

困窮して列に並ぶ人びと。
元旦からそれをサポートする人びと。
それを横目に高級レストランへ向かう自分。

なにかしらの割り切りがなければ前に進めない。
自分は自分。
ナイーブな感傷にふけるのはやめておく。
今日はしっかりとおいしいものを食べよう。

20:00の予約だったが、どうせならエッフェル塔のシャンパン・フラッシュを見てから行こう。
店には申し訳ないが、確信犯の遅刻。

ああ、今宵もエッフェル塔が光っている。
新年の青バージョン。
泡のフラッシュが目に心地よい。
満足したので店に入る。

元旦から開けている店は珍しいと思う。
左隣はフランス人の男女。
前はフランス人の6人グループ。
右の席に6人のイタリア人グループ。
それでも客席は3割から4割しか埋まっていない。

画像1

新年だし、エッフェル塔をみたばかりだし、シャンパンでも飲もうか。
一瞬よぎったけれど、まあいいや。
シャンパンは部屋で飲めばいいんだ。
代わりにコルシカ島の炭酸水。
これだって泡だ。

アミューズが運ばれてくる。

画像2

洋梨に、セロリのムース。
ヘーゼルナッツが香ばしさを加える。
強めの塩味。
ほどよい酸味。
皿がちゃんと生きている。

前菜を選ぶ。
先月食べたSushi(野菜の寿司見立て)はメニューから消えている。
Sashimiは定番メニューのようだ。
隣のイタリア人が当然のように注文している。
パリにやってきたイタリア人が新年早々から刺身を食べている。
ふーむ。

英語のメニューにSea-bass(スズキ)のcalqueと書いてある。
同じSea-bassのタルタルと迷ったので、calqueって何?と聞くとカルパッチョだという。
でもTuna(マグロ)のところにはcarpaccioって書いてあるので、Sea-bassにわざわざcalqueって書くのは何か特別な意味があるのだろうと思う。
調べてもよくわからなかった。

ともあれ、どういうものか見当はついている。
初めてこの店に来たときに食べてのけぞったあれに違いない。

画像4

今日はこれを食べに来たのだ。
あれだと信じて注文する。

運ばれてきた。
盛り付けが少し違うが、やはりあれだ。

画像3

スズキを薄くスライスしたものが皿一面に敷かれている。

上には薄黄色のゼリー。
ほんのりとした酸味に、上品な旨味。
穏やかでさわやかな味。
メニューを見返すと青リンゴとのこと。

小さいプチプチがまぶしてある。
レモンキャビア。
青リンゴのゼリーよりは強い酸味。
よいアクセントになっている。

という部分部分の説明を重ねても伝えきれていないだろう。
スズキという魚自体のポテンシャルは大きくないのだろうけれど、どんな魔法をかけたのだろう、甘味と旨味がじわっと口にひろがる。
なにかしらのハーブの魅惑的な風味があとからやって来る。
このハーブがまたとても素晴らしい。
香りは思い出せるけれど、表現する言葉がでてこない。

生の魚を食べさせる料理として、寿司と刺身以外に、こんなにもおいしい方法があるのか。
味覚がひろがるおいしさ。
ああ、世界にはまだこんなにおいしいものがあるのだ、と思わせてくれる。
初めて食べたときのようにまた感動できるのがうれしい。

メインはブルターニュ産のロブスター。
今回、魚市場をみてもあまりみかけなかった。
レストランではほとんど置いていなかった。
いまの時期はどの店でも帆立ホタテほたて。
おそらくオマールはシーズンではないのだろう。

でも食べたい。
フランスで食べるブルターニュのオマール海老。
ここ2日は夕食は部屋で我慢したし、今日は元旦。
しかも信頼すべきDivellecだ。
財布のひもを緩めよう。

画像6

運ばれてくる。
イカとジャガイモの炊き合わせみたいな見た目だ。
ちなみにジャガイモはnavarin potatoesと書いてあるが、何なのかよくわからない。
もったりとした、おいしい芋だ。

画像6

付け合わせかと思ったら、こちらもオマール。
部位を変えて、味も変えている。

さあ、オマールをひとくち食べてみる。
蟹のように食べた瞬間のように「おいしー」とはならない。
オマール海老ってどちらかと言えば淡白だということを思い出す。
なにせ量が少ないので一つ一つをゆっくりと、大切に味わって食べる。
じっくり味わうと伝わってくる。
オマール海老の上品な甘味と控えめな旨味が。
奥ゆかしいおいしさ。
それを邪魔せずに、楽しさを上乗せする濃厚なソース。

シンプルな料理なのだろうけれど、皿のうえのバランスがとてもよい。
オマールの素材の風味、ソースの味。食感。香り。トータルな旨味。
落ち着いていて、約束されたおいしさ。
素晴らしい一皿。

デザートは迷う。
ババ・オ・ラムが最高なのは知っている。
ただし期待が大き過ぎる分、失望するのも怖い。
他にもいいものがあるかもしれない。

デザートメニューを渡される。
スズキのカルパッチョとオマール海老のグリル。
全体的にすごく軽い食事だったので、シャーベットやアイスでは物足りない。
といってチョコレートのスフレという気分でもなかった。

ここはババ・オ・ラムにするか。
安定のではなく、ほんとうにおいしいのかを確かめるための、賭けとしての。

今日は経験が浅いとみえるソムリエがついてくれている。
たどたどしいながら、親身になってサービスしてくれる。
ババ・オ・ラムはベテランのソムリエが持ってくるのかなと思いきや、若者が持ってくる。

画像7

例の、この店ご自慢のラムだ。
いかにもさっき暗記しましたという風情で説明してくれる。
これは自家製のラムで、シナモンに、マダガスカルとタヒチのペッパーをブレンドして1か月漬けています。
前回聞き取れなかった後半部分がわかった。

それをババにかけると、

画像8

こうなる。

画像9

ババもラムに浸されて幸せにちがいない。

興奮のあまりサイドディッシュを撮影するのを忘れてしまった。
マスカルポーネのクリームと、パイナップルの果実、それにクッキーが載っていた。

いずれにしても、吸い込まれるようにおいしい。
雑念が消えて、純粋な気持ちになっていく。
ああ、自分はいま、このおいしさに直接に向き合っている。

この店で一年をスタートできてよかった。
心からそう思った。

店を出るとき、明日も来てねと言われた。
明日は来られないけれど、パリを訪れる度に必ず来たいと思った。
いや、この店に通うためにパリに来たいと思った。




いいなと思ったら応援しよう!