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【Kodawari Ramen Tsukiji】なぜパリに築地があるのか

今宵はオペラ座近くの日本人街にあるKodawari Ramen Tsukijiへ。
https://www.kodawari-ramen.com/kodawari-tsukiji-la-carte/
本店といったらよいのだろうか、オデオンにある鶏出汁ラーメンの「こだわり横丁」はミシュラン掲載店だが、鯛出汁ラーメンのこちら「こだわり築地」は掲載にはいたっていない。

しかしそんなことがここでのポイントではない。
この旅はじめての日本料理店。
しかもラーメン。
ラーメンが食べたかったというよりは、店の内装に惹かれて訪問した。

前日、近くを歩いていてたまたま遭遇したものすごい行列。

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パリの映画館や劇場で行列は珍しくないが、レストランにこんなに行列ができるのは珍しい。
なんだかすごく作り込んだ内装。
非常に気になる。
ホテルに帰ってからゆっくり調べる。

店名はKodawari Ramen(こだわり)。

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日本好きのフランス人オーナーが始めた店とのこと。
昼から夜までのノンストップ営業で、行列も絶えないらしい。
パリに住む日本人からも絶大な支持を集めているようだ。

さっそく翌日に行ってみることにした。
この日は雨だし、18:00くらいに行けばすっと入れるだろうと大きな気持ちで向かったが甘かった。
ラーメンの吸引力をなめてはいけない。
傘を差す人や、差さずに濡れている人たちがすでに6組ほど並んでいる。

ガラス越しに店内が見える。

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見よ、この作り込みを。
こういうの大好き。
体温があがる。

回転が早いので15分ほどで中に通される。
フランス人の女性スタッフが「イチメイサマ、イラッシャイマセ」と大きな声で席まで案内してくれる。

築地市場を再現しているようだ。
どこをどうツッコんでいいのやら頭が追いつかない。

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シャッターを押す手が震えて、写真もややピンボケだ。

目の前のものすべてが偽物。
しかし模倣の精度が極めて高い。

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もう一度言う。
こういうの大好きだ。
純粋に興奮してしまう。
こういうのが好きだから観光の研究をやっているのだと改めて実感する。

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市場で売られているような魚もすべてイミテーション。
パスティーシュ。
シミュラークル。

こういう作り込みに多大な情熱を捧げるオーナーに敬服する。

現場スタッフには日本人はいるのだかいないのだか。
たぶん1人くらいはいたのかもしれない。
作っているのはフランス人(らしき人)。

客は欧米人、中国人、韓国人。
カウンターにはおひとりさまの日本人と思しき人が左に1人、右に1人。
他にはいない。
コロナ禍も関係しているのかもしれないが、周辺の店も含め日本料理店やラーメン屋に日本人客を見かけることはほとんどない。

メニューはこちら。
商品名は日本語で書かれているが、説明はフランス語のみ。

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鯛の炙りぬたを頼んだ。(店員たちはタイのカルパッチョと呼んでいた。)

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味の批評はやめておく。

ラーメン(白湯)がこれ。
ややスパイシーな味噌が左に。

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ラーメンというものは、まあ、だいたい旨いと思っている。
いちいち論評するのは野暮だろう。
日本でそれほど食べ込んでいるわけではなく、論じる語彙も資格もない。
とはいえ何も述べないのもつまらないので、ごく手短に感想を記しておく。

基本的には、特に味のしない油が強く印象に残る。
鯛特有の風味は感じる。
嫌な味はしないが、旨味を感じない。
ラーメン独特のどすんとした強さというか、引き込まれるような力がない。
それを白湯ラーメンに求めてはいけないのだろうか。
全体として、油と鯛の出汁がうまくマッチしていないように感じた。
つまり、おいしくはない。

しかし真面目に作っているのはよくわかる。
後味に変なものが残らない。
つまり、化学調味料を使っていないか控え目なのだと思う。
でもどうなんだろう。
ラーメンって、化学調味料を使ってもいいからどすんとした押しが欲しいのではないだろうか。

あっ、結局なんだかんだ語らされてしまった。
(ラーメンと寿司とフレンチは人を能弁にするというのが持論だ。)
オシマイ。

隣に座った日本の女性に、トイレも面白いですよーと教えられて見に行く。

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日本にあるオーバカナルを思い出した。

オーバカナルはいかにもパリにありそうなブラスリーを再現した店だ。
東京にいくつか、大阪や福岡にもある。
パリにはない。

店内にはフランス映画のポスターがあざとく飾られ、フランス語のラジオが途切れることなく流れる。
店員の不愛想な接客まで再現するという徹底ぶり。

紀尾井町店だったか、いまはなき表参道店だったかは忘れたが、地下にトイレがあり(その時点でパリっぽい)、トイレの入り口にいかにもパリにありそうな公衆電話が置いてあった。
日本における「おフランス」の到達点といってよい完成度だと思う。

そのまったく逆のパータンをいま、パリで目にしている。
ついにここまで来たか。
今日はすごいものに出くわした。

最後に研究者っぽいことも言っておこう。

「築地市場」
「場外市場は移転しません」
店内にオブジェとして吊るされたビニール袋にそう印刷されている。

築地から豊洲へと市場機能が移転されたあとも、築地の場外市場はそのまま営業を続けている。
豊洲には観光客が気軽に立ち寄れるような商店や食事処がじゅうぶんに整備されておらず、観光スポットとしては今でも豊洲よりも築地なのだ。

市場の機能は失われているのに、「市場的なもの」を求めて多くの観光客が築地にやって来る。
きわめて観光的な現象だ。

観光客にとって、そこに「ほんとうに」市場があるかどうかは二の次。
「市場的な」雰囲気があって、「市場っぽい」ものが食べられればじゅうぶんなのだ。

築地市場(しじょう)に市場(いちば)はなくてもいい。
観光地としての場外市場は豊洲になくてもいいわけだし、築地にある必要すらない。
だからパリにあるのだ。









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