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【Halle aux grains】ミシェル・ブラスの新店で鶏の滋味に唸る

「いま話題の」と言っていいのだろう。
2021年5月、パリにまた新しい美術館がオープンした。https://tricolorparis.com/visiter/musee_monument/bourse-de-commerce-pinault-collection/
レ・アール地区の穀物取引所(Bourse de Commerce)だった建物を改装した、その名もずばりブルス・ド・コメルス。
設計は安藤忠雄が手がけた。

美術館のことは改めて書くかもしれない。
今回は食事の話だ。
併設レストランとして誕生したのがミシェル・ブラスの手によるHalle aux grains。
https://www.halleauxgrains.bras.fr/

渡航直前にNHKの番組で知った。
https://thetv.jp/program/0001008493/1/

ミシェル・ブラスといえば、有名店での修業を経ずに田舎町オーブラックのレストランで3つ星の評価を獲得した伝説的な人物。
地元の食材に対する徹底的なこだわり。
日本でいえば京都銀閣寺の摘草料理「草喰ながひがし」みたいな位置づけだろうか。(あまり好きではなかったけれど。)

26京都:なかひがし160710 (4)

ブラスが日本でも話題になったのは2002年。
世界中からのあらゆる出店依頼を固辞してきた彼が、初めての支店を北海道・洞爺湖のザ・ウインザーホテル洞爺に出店した。

ホテル支配人の窪山哲雄もまた伝説上の人物かもしれない。
ヒルトン東京ベイ時代の活躍ぶりは石ノ森章太郎のマンガ『HOTEL』のモデルになり、のちに高島政伸主演でドラマ化され「姉さん、事件です」の台詞で有名になった。
ハウステンボスのホテルヨーロッパの開業でも知られる。

北海道で立ち上げた大型ホテルのメインダイニングとして「ミシェル・ブラス」の誘致に成功した。
「ミシェル・ブラス トーヤ・ジャポン」はミシュラン北海道版で3つ星の評価を得たのだが、契約の関係で2020年に閉店してしまったようだ。

ここの料理長を務めたアレクサンドル・ブルダのオンフルールの店については以前に書いた。

洞爺湖のレストランをいつか訪れてみたいと思ってきたが、閉店により長年の夢は果たせなくなった。
そこへきて、パリの話題のスポットにブラスが新店を開いたというので、心躍らせて行ってみた。

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予約は20:00。
美術館はすでに閉まっており、屈強な警備員に「レストランを予約している」と告げると中へ通してくれる。

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席からは夜の美術館が見渡せる。

レストランのコンセプトは「穀物」。
穀物取引所だったという物語を料理に反映させている。

もう一つ、これは想像だが、世代交代というか、技術と資産の継承が意識されているのだろう。
この店は彼と息子のセバスチャンとの共同経営。
このセバスチャンがなかなか商売上手のようで、HPをみると色々と手広く店舗を展開している。
洞爺湖に代わって軽井沢にも出店したらしい。

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オープンしたてなのでまだミシュランの星はついていないが、流行好きの紳士淑女たちがしっかりおめかしをしてやって来ていた。
割と年配の人が多い。
70歳、80歳になってもレストランでしっかりとおいしいものを食べるフランスの人たちって、ほんとうにいいなと思う。

さて、メニューが運ばれてくる。
何もわからない初心者なのでコースにしてみる。
三皿とチーズとデザート。

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アミューズがこれ。
とうもろこし(だと思う)を煎餅のように揚げたもの。
わかりやすい旨味を感じる。
その上に赤いビーツが斜めにかかっている。
その上にはなにかの穀物がパラパラと載せられて、そのうえに人参の薄切りとナッツ。
カイワレみたいな葉っぱの強めの苦みは面白いけど、要らないなとも思った。
とにかく、ベースには旨味。
さまざまな穀物の、それぞれの特有の風味が楽しい。
そう、楽しい。
これこそアミューズだ。

テーブルには謎のボウルが置いてある。

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不思議に思っていたら、二品目のアミューズとして、スタッフが何やら注いでくれる。

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牛のスープだ。
これが当店の味でございます、ってやつだな。
面白いのは、これをスプーンではなく直接飲むこと。
最初はカフェオレボウルかシードルを飲むようなイメージかと思ったけど、むしろ抹茶だな。
お抹茶をいただくようなスタイル。
フレンチではスープは食べ物だけれど、これはまさしく飲み物として出されている。
まったりとした味わい。
くいっと飲んで、鼻から息をしてみると、濃い出汁の旨味がひろがってくる。
後味もよい。
まあ、これはこれという感じだろう。

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一皿目。

コック貝(あさりみたいなもの)にウニがちらっと。というか一切れ。
貝のオレンジの部分からウニを連想したのだろうか、色合いだけでなく味わいもうまく調和している。
ビーツが添えてある。
ソースもビーツ。さわやかなバターのソース。
赤かぶを酢漬けにしたものが付け合わせてある。
これがとても酸っぱい。
背筋がピンとなる酸っぱさ。

貝そのものの旨味をうまく活かしながら、ウニの芳醇な味わいを乗せ、まろやかなバター、全体的にやや強めの塩、そして赤かぶの酸味。
それらが待ち構えながら順を追って幸せを運んできてくれる。

おおげさすぎない、軽やかな前菜だ。

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二皿目はスズキ。

スズキで一度失敗したので、少し身構える。
背に載っているのは蕎麦の実をバターで焼いたものだそう。
スズキに適度な塩味と心地よい香ばしさを加えている。
スズキそのものが圧倒的においしい。
白米が欲しくなる、といえば伝わるだろうか。
ラディッシュを細切りにしたものはさっぱりしていて、漬物にみえてきた。

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三皿目は鶏。
シャポン(Chapon)という高級品種らしい。
皮にはピリ辛の味つけ。
りんごのピューレの酸味が心地よい。

鶏のなんと滋味深いこと!
黒胡椒を食べて育てられた鶏。そんなバカげた想像すらしてしまう。
単においしいというのではない。
静かに大地を祝福し、生命を慈しむような厳粛な味わい。
一噛み、一噛み、この鶏のおいしさについて、考え、喜び、唸りながら食べる。

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チーズは三種。
もちろん、ごろごろと穀物も載っている。
つまみながら食べる。
左下はオレンジを煮詰めたようなもの。強めの酸が華やかさを感じさせる。
この皿も、ひとつの料理。
そんな気がした。

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デザートは、洋梨を煮詰めたもの。
それに洋梨のソルベ(シャーベット)、蕎麦のクッキー、ナッツ(カルダモン)、オレンジなどが添えてある。
蕎麦の実とカルダモンで穀物の物語を終える。

もっと前衛的な、わけのわからないものを期待していたけれど、普通にちゃんとおいしい料理だった。
普通の料理という意味ではない。
料理の最上級だと思う。

鶏がこんなにも上級で厳かなものだということを、初めて教えられた。
自分の舌は、このChaponに追いついているだろうか。
自分は、この鶏を食べるに値するだろうか。

答えはわからない。
そう考えさせてくれただけで、最高の夜だった。

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