落ちこぼれ同級生でバンド組んだ話

『ゲージュツなめんな！』

汚い映像に映る俺はたしかにそう言っていた。

俺の高校には芸術学科というものがあった。ゲージュツと呼ばれていた。俺もそこにいた。

特別進学、進学、普通、総合芸術。これは入学時に選ぶものが普通だと思うけど、俺の高校では、学年をあがる時に別の学科に進級するという生徒も少なくなかった。

１年生普通→２年生から進学（特進）がよくある。先生から「良い大学に行くためにレベルをあげたらどうだろう」と言われて決める生徒がほとんどだ。そこまで直接的に言われるかは知らないけど。断る奴もあんまりいない。大学進学に興味ない女子が断るぐらいだ。

特別進学→進学。これはわかりやすい。特別進学についていけなくなった生徒が落ちるパターンだ。それでも、俺からしたら随分『あたまのいい生徒』であった。特進についていけなかった奴のレッテルを貼られて辞める人も多いのかと思ったけど、結構開き直ってる奴が多くて、それなりにのびのびやってるイメージだ。

じゃあ、俺はどうだったか。いや、俺たちはどうだったか。

進学、普通からゲージュツに落ちていった組だ。成績不振なやつはもちろん、問題児や不登校なんかが、一気にここに集まる。

俺の場合は、途中から高校が嫌になり、ここに来た。学校以外の友達と遊ぶことが多くなったのが一番の原因だった。俺の中学時代の仲間の半分は高校を１年の途中でやめていた。そんなんだから、俺もなんとなく高校生活を満喫する気になれず。というか、高校になじまないことがかっこいいとさえ思っていた。結果クラスに友達もできず、気づけば学校もサボりがちになり、という典型の落ちこぼれ。

それで、俺は２年生になるときゲージュツに行くこととなった。親を呼ばれて先生と話した気がするし、自分でゲージュツ科に行きたいと書いた気もする。よく覚えていない。クラスで「あいつゲージュツに行くらしいよ」とクスクス言われていた気がするが、それも１０代特有の被害妄想だったかもしれない。

そして、俺はゲージュツの２年になった。面白くない学校生活をなんとかして楽しみたいと思った俺は、バンドをやろうと決意する。春休みからそれは決めていた。

どうせ落ちたからにはとことん落ちてやろう。そんなことを考えていた。パンクロック＝堕落した人間という間違った認識があったことは否めない。

RANCIDとGOING STEADYが俺のヒーローだったんだ。

ゲージュツと名がついているからには、音楽コース、美術コースなどがありコースによってクラスが決められる。音楽コースを選んだ俺は３組だった。

とりあえず、ギターを探そうと思った俺は、クラスを見渡してみた。

そして後ろの席にいたやつに話しかけた。NOFXのステッカーがペンケースに貼ってあったからだ。

話を聞くとギターが弾けるらしく、バンドもやりたいという。

おかっぱみたいな頭に、背は低いがガッチリとした腕。しかし、ボソボソと喋っているし、何か自信なさげだった。だけど、パンクロックの話になると目をキラキラさせて「君は何が好きなの？」とよく喋った。GOING STEADY、HiSTANDARD、NOFXやFAT系が好きだと教えてくれた。

そして、その週末。俺はそのおかっぱことユウジの家に泊まりに行くことになった。知り合って1週間で泊まりに行く仲になった男は最初で最後だ。

母親がすごい歓迎してくれた。それに俺は驚いた。俺は誰かんちに遊びに行って歓迎されるなんて高校になってからは全くなかったからだ。

ユウジの家は、めちゃくちゃデカくて、真っ白の外車が２台停まっていた。そんな良さそうな家の母親が歓迎してくれるなんて、なんだか申し訳ない気がした。後々この理由はわかることになる。

ユウジの広い部屋で朝までひたすら音楽を聴きまくった。俺が持ってないＣＤは貸してくれた。俺たちは初めてできたバンド仲間にうかれていた。

５月になった。俺とユウジはなんとなく曲作りを開始し、二人で大絶賛していた。ユウジはDTMをやっていて、簡単な打ち込みをやった。俺はバイトのない日はほぼユウジの家に行っていた。そんな中ドラマー問題が発生した。

俺「ドラマーってなかなか見つからないよね？」

ユウジ「１人叩ける同級生知ってるよ」

俺「マジ？誘ってみてよ！」

ユウジ「いや、知ってるだけ。学園祭で叩いてるの見たことある」

じゃあ、しゃべんな！とは、言わなかった。

俺は学園祭でライブがあったことすら知らない。ウォーターボーイズが流行った後だった。学園祭のあのキラキラした感じがどこか疎ましかったのかもしれない。

結局、俺たちの人望ではそのドラマーが誰なのか見当もつかなかった。かろうじてゲージュツの人間でないことはわかったぐらいだった。

ユウジ「あとベース弾ける人を多分知ってる」

今度は妙に面倒な言い方をしてきた。

俺「俺がベース弾くからベースはいいよ」

ユウジ「いや、一回さ、誘ってみない？」

マズイぞ。俺よりうまかったらどうすんだよ、俺いらねーじゃん。

その時はドラムでもやろうかな、いや竿ものがいいよなぁ。

ユウジ「とにかく会いに行こう。隣のクラスだよ。」

普段、積極的ではないユウジが妙に積極的だ。ユウジはどちらかと言わずとも、地味でおとなしいタイプだ。クラスでも目立たない。だけど、天然なところがあるというか。デリカシーがないというか。途端に大胆になるやついるでしょ？それの典型なやつ。

あとから聞いた話だとかなり気になってたらしい。とりあえず次の休み時間に隣のクラスを覗きに行くことにした。

教室を覗き「あ、彼だよ」と言われそっちを見ると気になっていた理由が俺でも一発でわかった。

ケンスケというその男は、２年生２回目の男だった。

どこの学校もそうだと思うけど、留年生はやっぱり浮く。

見た目からヤンキーですというオーラが出てた。身長180cm。目つきが悪く、でも鼻が高く整った顔。モジャモジャ頭をオールバックにしているヘアースタイルは異質だった。

だるそうにケータイをいじりながら机に座っているケンスケに俺たちは声をかけた。

俺「ベース弾けるの？、、ですか？」

タメ口で行けばいいのか、敬語が正解なのかわからなくて、どじっこ天然キャラが言いそうな言葉回しになった。

ケンスケ「あー、、、少し弾けるよ（照）」

この一瞬の（照）を見逃さないのがユウジだ。

ユウジ「やっぱり！楽器屋で見かけたことあるんですよ！一緒にバンドやりましょう！」

俺「いや、おい！いきなり、、」

ケンスケ「おう、いいよ」

は？いいの？

即答かよ。

つづく。