何かからいつも 銀化の俳人004 田口武
俳句結社『銀化』に集う個性ある優れた俳人たちの秀句を鑑賞していきます。第4回となる今回は『銀化』第一同人・田口武の一句を鑑賞します。
蜥蜴の動きは魅力的だ。路面だろうが壁面だろうが、するするすると音も無く移動する。そんな蜥蜴の動きがまるで「何かから逃げてゐる」ようだ、という発見。この発見こそこの句の生命であり、すべてであると言っていい。「何か」とは何か。彼らはいったい何者から逃げているというのだろうか。
猫の額ほどのわが家の中庭に、野良猫の子どもが住み着いて久しい。朝晩欠かさず餌を与えてきたが、野生の警戒心は半端ではなく、容易に体に触れさせてはくれない。こちらは可愛いと思って触ろうとするのだが、ササッと身を躱し、ひと撫でたりとも許してはくれない。そんなとき、動物と話をすることのできぬ寂しさ以上に、動物に好かれていない「人間」という存在を哀しく思う。
人間のこれまでの行為の結果として今日の自然環境があるとすれば、彼らから嫌われるのも当然だ。蜥蜴が逃げ出す対象は、他ならぬ「人間」ではないだろうか。(了)