跳びそこねたるやうな恋 銀化の俳人002 ひらのこぼ
俳句結社『銀化』に集う個性ある優れた俳人たちの秀句を鑑賞していきます。第2回の今回は、ひらのこぼの一句を鑑賞します。
そこに泥濘や水溜りがあれば、とりあえず跳び越えてみるのが男の子の仕事というものだ。跳び損ねれば当然、泥水がズボンに撥ね上がる。白いデニムなど穿いていようものなら、目も当てられない。おニューの靴も無論、泥まみれだ。
概して、そんな恰好をしているときほど、そんなことをしてみたくなるのが男の子というもの。しかし、跳び損ねれば後悔しかない。後悔は大きいほど記憶に残るものだ。
お相手はきっと、一目見て跳び越えたくなるような、魅力的な「春泥」だったに違いない。ここで跳ばなければ男の子じゃない。結果、泥水は大きく撥ね上がり、真っ白だったズボンにけっして消えぬ豪快なシミをつくった。
だが、真っ白なズボンを真っ白なまま、一生穿き続けることのできる人などいやしない。人はみな様々な色、形、大きさの、シミだらけのズボンを穿きながら生きている。そのシミの一つひとつが彼の個性を、彼女の人格をつくっているのだ。(了)
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