聖書の如き人 一句鑑賞001 田中目八
一句鑑賞第1回は、俳句雑誌『奎』同人・田中目八の一句を鑑賞します。
「五月雨」「聖書」とくれば「聖五月」という季語を連想せずにはおれまい。瑞々しい新緑のなか、聖母マリアのごとく優しく、遍く慈雨が降り注ぐ。そんな家に住まいたい、そんな家庭を築きたい——そんな作者の願望が表出した句なのではないだろうか。
一方で、もっと即物的な見方をすることもできる。聖書とは如何なる書物であるか。それは辞書のように分厚く重く、無用な装飾などいっさい無い、内容に興味・関心の無い者にとっては面白くも可笑しくもない本である。そんな「重厚」な家を持ち「質実」な暮らしを営みたい——そういうことを言っているのかもしれない。
作者である目八さんは(まだお会いしたことはないが)個性的な表現で、ときに一見奇抜とも思える句を詠まれる俳人だ。けれども、そんな見かけの向こう側には、山本周五郎の描く主人公たちのように重厚で質実、そして清潔で優しい人柄が垣間見える。きっと、目八さんその人こそ「聖書の如き人」なのだろう。(了)