さよならエニグマまたいつか
四人の編集者と組んで暗号を解いてもらいたい。見事解き明かした組には遺作の出版権と日本最高の暗号作家を打ち負かした栄誉を与えよう。無論、万に一つも君たちが勝つことはない。これは推理小説家・矢郷倉太郎の全てを賭けた、諸君ら四人の名探偵への挑戦である。
下に、遺作の隠し場所を記す。
たかたたべどたけいのたうら(狸の絵)
「で、どうでした」「壁時計の裏にありました」
矢郷邸の居間に四つのため息がこだました。嫌な予感はあったのだ。隠すも何も遺作のデータは三日前に私が受け取っている。矢郷はここ数年明らかにぼけていた。得意の暗号ミステリも精細に欠き評判は落ちる一方。遺作も過去最低の出来だった。
「探偵たちはいつ着く?」「二時間後です」
時間がない。だがやるしかない。矢郷ブランドを守りこの駄作を多く売るために。ボケ老人の残したたぬき暗号を大矢郷の名に相応しい最高のものに作り替えるのだ。私たち四人の編集者の手によって!
【続く】