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亜麻色の髪の彼女
「誰?」
助手席のドアを開けてタカシの車に乗り込むと、ウェーブのかかった亜麻色の髪がチラリと見えた。
それは弱々しく息をしながら後部座席に横たわっていた。
「君に出会う前から…付き合ってた」
「そう。まぁ、そんな感じはしてたけど」
「えっ…。そうだったんだ」
「亜麻色の髪をした物体は、まぶたを閉じ、小さく胸を上下させていた。
「今ならまだ、助かる?」
「いや、もう無理だろう」
「で、どうするの?」
「ごめん…僕のせいだから、サイゴまで今夜は一緒にいたい」
「大好きだったんだ…」
「うん、大好き。今だって…だから、ごめん」
「私なら平気よ」
「本当、ごめん。君を巻き込んじゃって…」
「私なら大丈夫だってば」
「ありがとう」
タカシは私の言葉に安心してたいせつなものに触れるようにそっとアクセルを踏んだ。
タカシと私、そして後部座席の亜麻色の髪の彼女。奇妙な3人を乗せて、メタリックブルーの車は闇の中へとまぎれこんでいった。
彼女と出会ったのは16年前だった。無邪気にはしゃぐ笑顔に、タカシが彼女を好きになるのに時間は要らなかった」
人を疑うことを全く知らず、いつも真っ直ぐにタカシをみつめていた。
その彼女が今、私たちの後ろで絶えそうになっている。
「あれ、お気に入りだったんだ」
彼女はさよならの代わりに、お気に入りのサメのぬいぐるみをひと噛みした。
キューッと音がして、彼女の胸も動かなくなった。
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